■ 其の十 ■

01. 眠りの中で感じた眩暈

私は眠っているはずよ
ここは私の世界だからあなたなんて知らない

私は眠っているはずよ
あなたは登場人物でもない

私は眠っているはずよ
それでも眩暈は消えないの

私は眠っているはずよ
あなたがいるだけで眩暈を感じる私は誰?

02. いつ終わるとも痴れない

私はいつ終わるの?
それは私が死ぬ時
みんなはいつ終わるの?
それはみんなが死ぬ時
猫はいつ終わるの?
それは猫が死ぬ時
私はいつ死ぬの?
それは私が終わる時
世界はいつ終わるの?
それは遠い未来
私が終わった後

そんなのいつ終わるとも痴れない

03. 祈りの重さと罪の甘さ

私に届くのは誰かの祈り
私に聞こえるのは誰にも届かない誰かの祈り

目の前にいるのは一人のヒト
うずくまり痛みを耐えている一人のヒト

その人から零れだしたのは願い
死にたくないと、生きていたいという祈り
その人から零れだしたのは願い
死にたくないと、生きていたいと請う

祈りはあまりにも無意味で
こんな時にはいつも以上に無意味
でもだからこそ
その祈りに込められた想いの何という重さ
そして
その祈りを打ち砕くという罪の重さ

罪は重く
それ故に苦く
罪は重く
それ故に甘く

そして打ち砕いた私に残ったモノは
祈りの重さと罪の甘さだけ

04. 傷口のない出血

痛いの
死にそうなくらい痛いの
いいえ もうすぐ私は死ぬわ
傷口はないの
出血もないわ
そんなに不思議?
私は精神死するの
そんなに不思議?
あなた達が追いつめたのに?

痛いの
死にそうなくらい痛いの
あなた達にはわからないでしょうね
無意識の言葉を武器とするあなた達には

05. あなたがみた夢

あなたが見た夢を私が見た夢は違うわ
だからこんなに哀しいのね
あなたは今だけを見て
私は未来まで見ている
だからこんなに悲しいの
あなたとは夢が違うもの
だからこんなに哀しいの

あなたが見た夢を私が見た夢は違うわ
元は同じ夢だったのに
今はもう違うわ
だから私は哀しいの

どこで間違ったのかしら

06. 廃墟に響いた鐘の音

廃墟に響いた鐘の音は
死者を弔うためのもの
廃墟に響いた鐘の音は
死者の魂を呼び出すもの
廃墟に響いた鐘の音は
私の心を癒すもの

廃墟に響いた鐘の音は
死者へ捧げる鎮魂歌

07. 届かないのはこの手

あなたに届かない
私の手は届かない
あなたを助けられないの

苦しむあなたに手を差し伸べてあげられない
ごめんなさい

私にはその力があるのに
ごめんなさい

あなたに届かない
私の手は届かない
届かないのは、この手

08. 棺の中の廃魚

棺の中に魚がいる
棺の中にたくさんの廃魚
死した者は棺の中へ
それが人であろうがなかろうが同じく

死した者は棺の中へ
それはまるで誰かのよう

棺の中に魚がいる
棺の中にたくさんの廃魚
それでも誰かと一緒なのは
幸福なのか 不幸なのか

09. 嘘なら触れないで

あなたは私に触れてはならない
私はあなたに触れてはならない
だってこの関係は偽りだもの

あなたは私に触れてはならない
私はあなたに触れてはならない
私はあなたを愛していないし
あなたは私を愛していない
充分なほど、偽りね

あなたは私に触れてはならない
私はあなたに触れてはならない
あなたは私に「愛してる」と言わない
私はあなたに「愛してる」と言わない
それが私たちの間の唯一の真実

あなたは私に触れてはならない
私はあなたに触れてはならない
互いが互いに嘘吐きな私たち
嘘吐きなあなたは私に触れてはならない
嘘吐きな私に汚れてしまわないように

あなたは私に触れてはならない
私はあなたに触れてはならない

嘘なら触れないで

10. 海底から見えた唯一の空

私はずっと海の底
空なんて一つも見えない

私の心は海の底
他には誰もいないのよ

私の心は海の底
暖かいけど冷たいの

私の心は海の底
空なんて一つも見えない

私の心は海の底
空はもう離れてしまったもの

11. 発狂寸前、永久の痛み

トゲが刺さって抜けない
先端はもう折れてしまった
もう トゲは抜けない
永久に続く痛み
そのトゲは私から水を奪っていく
私を枯渇させる

どうして気付いてしまったのだろう
気付かなければ幸福だったのに
私はそれが何のトゲなのか知っている
でも私には答えられない

抜けないのは私が私だから
抜けないのは私が独りだから
私が人である限りそれは抜けない
抜けない トゲ

私は独り
人は独り
みんなも独り
一人一人、独り

私はトゲのせいで枯渇している
私は永久に続く痛みを感じている
痛くて、渇いて、私は狂う

発狂寸前、永久の痛み
永遠の孤独

12. あたしの葬列の行方

あたしは死んだ
それは間違いないわ

あたしは死んだ
今はあたしのお葬式

あたしは死んだ
あの棺の中は空っぽ

あたしは死んだ

無意味な葬列
無意味な式典
それ以上に無意味なのはこの私

この葬列はどこに行くのかしら
運ぶべき器はここにあるのに

13. この目で見たかった救い

私が見たかったのは
私の姿を映したあなた
私が見たかったのは
あなたの寝顔
私が見たかったのは
本を読んでいるあなた
私が見たかったのは
料理をしているあなた
私が見たかったのは
日常を手にしたあなた
私が見たかったのは
あなたのすべて
私が見たかったのは
あなたの幸福

私の救いはあなたの幸福
私がこの目で見たかったのは
あなたの幸福

14. 腐って落ちた罪の果実

リンゴの知識は腐って落ちた
周りに腐ったリンゴがたくさん

リンゴの知識は腐って落ちた
それでもまだまだ実がなっている

リンゴの知識は腐って落ちた
リンゴの実には秘密がたくさん

リンゴの知識は腐って落ちた
腐ったリンゴはバレた秘密

リンゴの知識は腐って落ちた
毎日毎日落ちてくる

リンゴの知識は腐って落ちた
最後に一つ たった一つ

リンゴの知識は腐って落ちた
それは絶対落とせない

リンゴの知識は腐って落ちた
それは永遠へと辿り着く道

15. 温かいのは偽物の揺り籠

私にあるのは偽の揺りかご
私を包むのは偽物の揺りかご
優しくて温かい
それでも偽物は偽物
本物には敵わない
それを知っているのに私は偽物を求めてる
なんて愚か
私が欲しいのはただの揺りかご
私を包んでくれる入れ物
だからもうどうでもいいの

私にあるのは偽物の揺りかご
もう どうだっていいのよ

16. 潰されたモノ

潰されたのは私の心
潰されたのは私の想い

潰されたのはあなたの心
潰されたのはあなたの想い

潰されたのは私たち
潰されたのは私たちの想い

純粋な、私たちの、想い

潰されたのは私たち
殺されたのは私たちよ



配布元:16の御題