■ 其の十一 ■

01. 星屑の微温

歌うこと
願うこと
祈ること
夢むこと
煌々と光る星々

泣くこと
笑うこと
怒ること
愛すこと
人々は星に想いを託す

人々は星に想いを託し日々を生きる
あの人が幸せでありますように
どうか笑っていますようにと願う

想いはいつか零れ落ち
すべての人々に溶けてゆく

歌うこと
願うこと
祈ること
夢むこと

星屑の中の微かな温み

どうかあなたに届けばいい

02. 破棄した十字架

深淵に、闇の底へと落ちてゆく
無音の底へと

祈りなど届かぬ暗闇に身を潜め
ひとり、ひとり

祈りを破棄して幾時経っただろうか
今はもうあの祈りすら遠い

ここは深淵の闇の中
光すら届かない漆黒の森

誰もここに足を踏み入れることは叶わない
それはあなたも引きずり込まれる

私の祈りは届かなかった
私の願いは叶わなかった

祈りも願いも想いも罪も
すべて十字架にのせて捨ててしまった

私にはもう何もない

深淵より深い闇の中に見えるものは
私が破棄した白い十字架

03. 籠の鳥の愚

夢を見ていたのです
いつか私は外に出るのだと
いつか私は自由になれるのだと
ついぞと叶わぬ永遠なる夢を

叶わぬものだと知っていながら
何かを夢見ることだけは忘れはしなかった
私は夢を見ていたのです
何かの夢を見ていたのです
いつか叶うと信じながら

私は信じていたのです
たくさんの答えを知りながら、それでも
信じていたのです、ずっとずっと
望むことを諦めなかった

願いはいつか叶うのですから
硝子細工のように脆いものでも
いつか叶うのだから

「唯一叶わない私の願い」

願うことを諦めてはならない
夢見ることを諦めてはならない
例えそれがどれだけ愚かなことだとしても

04. 空虚な蕾の色

蕾の中は空っぽ
何にもないの

確かに花は実をつけた
でもその中は空っぽ
蕾は蕾のままで
決して花開くことはない

その中にはあまりにも何もなくて
悲しくて悲しくてとても悲しくて

花の中には何もなくて
蕾の中には何もなくて

泣いて泣いて泣いて泣いて
蕾は涙の色へと染まった

蕾の中は空っぽで
花の中は空っぽで
いつか涙の色へと染まり
いつか涙でとけていく

05. 爛れたその手の先

その手はいつだって空回り
望むものは何一つ手に入らない

煉獄の炎に焼かれてまで
あなたは一体何を求めていたのでしょうか

今ではもう知る術はない

爛れたその手の先に
望むものはあったのか―――それすら
それすら知る術はなく

その手はいつだって爛れていた
私は似たような手を何回も見続けている

その手はいつだって欲していた
欲しすぎて身を焦がし
煉獄の炎に焼かれる程に

私はいつだってこの手を見ていた
私は黙って見ているだけだった

爛れたその手に未来は広がっているのか?
それはもう知る術もない

06. 崩落した想い

零れ落ちていく
崩れ落ちていく
さらさらと砂が零れていくように
怒りも哀しみも喜びも楽しみも
希望も絶望も、すべて

消えてゆく
失ってゆく
私のすべてが失われてゆく

砂のように崩れ落ちた私の欠片たち
受けとめるのは誰なのかしら?
それとも誰にも触れられず朽ち果てるの?

私は受けとめる人を待っている
私は私の想いをほんの少しでも理解してくれる人を待っている

想いを崩落させすべてをさらけだしても
誰も私を理解できない
それはとても悲しいこと

怒りも哀しみも喜びも楽しみも
希望も絶望もすべて
零れ落ちてしまって

私に残っているのは
ほんの少しの欠片たちだけ

07. 人形の足の枷

人形に意志はない
ソレはモノなのだから
人形は動かない
ソレはモノなのだから

では何の為に、何の理由で、
この人形に枷などつけられているのだろう

ソレは執着か?
ソレは独占欲か?
ソレは一体何故に?

人形にまで枷をつけるほど
それほどあなたは不安なのか

不安で不安で仕方がなくて
もう何も失いたくないと願っているのか

つけられた枷は外されることはないでしょう
すべてに怯えているあなたは悲しいくらいに愚かな人

そして夢見るすべてのものに
鍵をかけて閉じこめるのでしょう

夢見ることを忘れたあなたに枷をつけてあげましょう
あなたがつけた人形の枷を

08. 空に絡まる蔦

しゅるしゅると
蔦は登る

しゅるしゅると
蔦は絡まる

それは決してありえない
空が空である限り蔦が絡まることはない

空は広く とても広く
空は遠く とても遠く
手をのばしても届かない

だからこそ蔦は登る
だからこそ蔦は絡まる

手をのばしても届かないから
想いをこめて蔦は絡まる

しゅるしゅると
蔦は登る

しゅるしゅると
蔦は絡まる

想いをこめて空へと絡まる
のばした手をその蔦に

09. 白昼に曝された罪

首に赤い華が咲きました
首に赤い華が咲いたのです

私にその華を隠す術はなく
その華を白昼に曝すしかないのです

あなたはその華を見たとき何を思うのでしょうか
その華が咲いた私を見て何を思うでしょうか

裏切られたと責めますか?
何かの間違いだと逃げますか?
どちらにしろ、何故というのは間違いないでしょう

これは私の罪なのです
これが私の罪なのです

私の弱さが招いた私の罪
私の弱さの証

首に赤い華が咲きました
首に赤い華が咲いてしまったのです

私にその華を隠す術はなく
私はその華を隠してはならないのです

白昼に曝された罪を見て
あなたは何を思うでしょうか

10. 背徳の遺書と夕闇

誰かに殺されることは可哀想なのでしょうか
例えそれが自ら差し向けたものだとしても

自ら死ぬことは罪なのでしょうか
それがどのような理由にも関わらず

殺すことがすべて罪ならば
私たちはすべて罪人
この世の一人残らずすべて

だから私たちは死ぬのです
だから私たちが死ぬのです

一番最後に最大の罪を犯し
すべての罪をこの身にかぶり

だから私たちは死ぬのです
だから私たちは死ぬのです

私たちの遺書を残して
私たちは死ぬのです

夕闇の中に身を残して
背徳の遺書をこの胸に残し

私たちは死ぬのです

11. ヤまない貴方

闇を見たことはありますか?
傷を負ったことはありますか?
絶望を貴方は知っていますか?

闇を見たことはありますか?
虚無を見たことはありますか?

傷を負ったことはありますか?
傷つきすぎて痛みを忘れたことはありますか?

絶望を貴方は知っていますか?
あの闇を
あの傷を
あの孤独を
あの空白を

私はすべてを知っている
私はすべてを持っている

私の心は白と黒
正気と狂気
そして希望と絶望

隣にいるのはキレイな貴方
あまりにも清らかで
絶望など知らないと笑っている
病まない貴方
希望の象徴

12. 月に映された願い

月はすべてを左右する
月は人を狂わせる
月は命を推し量る
月はすべてを狂わせる

清浄なる月の蒼
狂気なる月の緋
色は違えどすべて同じ
目醒めるは唯一なる狂気

月はすべてを違え狂気を目醒めさせ
その面に願いを映す

目醒めた狂気のその裏に
隠れた願いを映し出せ

無垢な願いよ無垢な祈りよ
月の裏へとその身を映せ

狂気と無垢を胸に抱き
月よそのまま堕ちてゆけ

13. 桜の下の秘密

桜の下には死体が埋まっている
そんなのもう誰だって知ってる
だからそれは秘密じゃない
だけどもう一つ秘密がある
それは私だけの「秘密」

私の桜の下にも死体が埋まっている
それは本当は誰も知らない
だからもう一つ
私の「秘密」を埋めてあげた

桜の下に埋まっているもの
それは死体と私の「秘密」
だからこんなに紅く咲くの
綺麗に綺麗に真っ赤に咲くの

その朱い血を吸い出して
真っ赤に咲いた桜の花びら
私の「秘密」の中からも
たくさんたくさん吸い出すの

桜の下の私の「秘密」は
私の為の私の贄
私は別にいらないのだから
せめて美しく桜の為に

桜の下の秘密は
毎年毎年増えていくばかり

14. ラプンツェルの塔

塔があるよ
高い塔だ

あそこにいるのはお姫様?
いいえ、そんなものじゃない

あそこにいるのは一人の娼婦
誰のものにもならないように
すべてのものへとなった愚かな女

姫になるのと夢を見て
聖女になるのと夢を見て
寄り添う男に夢を見ながら
夢を与える愚かな女

夢を与えて夢を見て
すべてに逃げてすべてから逃げる

独り独り唯独り

姫と呼ばれたその娼婦は
今宵も塔にて夢を見る

15. 異端の白百合

世界は美しい
そしてそれ故に醜い

人は美しい
そしてそれ故に醜い

想いは美しい
そしてそれ故に醜い

すべてが灰色で構成されているこの世界は
あまりにも美しくあまりにも醜い

この世界で純粋な色などありえない
欲望のままに動くモノなどいないし
優しさを失ったモノもいない

そんな世界にたった独り
あなたは唯一真白な人

醜いものなど何も知らず
白く咲き誇る大輪の華

故に故にただ故に
あなたに誰も触れられない

その白故に無垢故に
故にあなたは異端の白百合

16. 刻みこんだモノ

このカラダに刻みこんだのは
生きている証

このカラダに刻みこんだのは
無垢なる祈り

このカラダに刻みこんだのは
罪なる痛み

このカラダに刻みこんだのは
銀の絶望

このカラダに刻みこんだのは
透明な希望

このカラダに刻みこんだのは
あなたの想い

このカラダに刻みこんだのは
私の想い

そして零れ落ちていくのは
私の緋色

すべて零れ落ちて
すべて刻みこんで
「私」は『私』に生まれ変わる



配布元:16の御題