殺意ドメスティック


 いっそのこと殺してしまおうか。

 一護は隣に座る男を一瞥し、心からそう思った。
 声を出されないように口を塞いで、それから首を絞めて、そうすれば多分一発だ。
 一護は心からそう思う。もうこの男に振り回されるのは疲れてしまった。そしてこちらに回ってくる利益など一つもないのだ。
 一護は隣で眠っているはずの男を見た。多分一護が起きているのには気づいている。気配の聡い男だ、気づかないはずがない。

 ゆっくりと首筋に手を伸ばす。親指を首と顎の接合部分の隙間に差し入れる。それから、
 それから――――、

「…やらないんスか?」

 寝ているフリを続けていた浦原が声を上げる。驚きはしない、予想していたことだ。

「別に、アタシは構わないんスよ? キミになら、本望ってモンです」

 その言葉を聞いて、一護は初めて男が楽しそうな、もしくは嬉しそうな表情をしていることに気づいた。
 一護は無言で浦原の首筋から手を離す。浦原は拍子抜けしたような残念そうな顔をした。

「おや、やめちゃうんスか?」
「…やんねえよ。アンタを殺すくらいなら俺が虚に食われる」

 男が驚いた顔をした。

「それはまた、どうして」
「アンタを尸魂界に戻すのは癪だし。それに、」

 一護は男を見た。ああ、相変わらず殺してやりたい。


「アンタは俺が自分の手の届かないところにいったのを知って、一生悔しがってればいい」


 一護は布団に戻った。きっと、眠りにつくのはもうすぐだ。
 布団の外で、男が笑った気配がした。