出会いと別れ。そして始まり。
ver.BLEACH


「明日、ここを起つ」

 そう言った一護を、浦原は決して止めようとはしなかった。
「はい、行ってらっしゃい」
 ただいつもと変わらぬ様子でそう言って、柔らかく一護を見送っただけなのだ。

 決して引き留めてほしかったわけではない。一護は無人駅の構内に立ってそう思う。足下には小さな鞄が一つ。それが一護の荷物だった。
 引き留めてほしいとは思わなかった、それだけは確信を持って言える。そして浦原がどんなに引き留めようとも、自分は去ってしまうであろう自信もある。それ以前に一護を引き留める浦原というのも想像がつかないが。
 だから、これできっといいのだ。一護はどんなに足掻いてもこの街を出るし、浦原はまず一護を引き留めない。引き留めることをしない。
 だがこの釈然としない気持ちは何だろう。胸に微かな寂寥感。有り得ない筈の後悔。

 …もしかして自分は引き留めてほしかったのだろうか。そうならばこの寂寥感も納得がいくのだが――――。

「まさか、有り得ねぇって」
「アタシとしては、そのまさかだと思うんスけどねぇ」

 背後からの突然の声。思わず後ろに振り返った。そしてそこにいるのは、想像通りの男の姿。

「お別れを言いに来ました」
「…別れなら前に言ったろーが」
「はい、でも何だか黒崎サンは誤解してそうでしたので」

 自分が何の誤解をしているというのか。一護は眉をしかめた。
 ちょうどその時、駅に列車が入ってくる。浦原は一護の足下の鞄を手渡して言う。

「それでは、行ってらっしゃい黒崎サン。アタシはここでキミの帰りを待ってますよ」

 言うな否や、浦原は開いた列車の入り口に向かって一護を押した。あまりにも軽く一護の体は列車の中に滑り込み、そのまま列車の入り口が閉まる。

「ってオイ! 浦原!」

 立ち上がって窓から外を見れば、駅で浦原はこちらを見ていつもの胡散臭い笑みを浮かべて手を振っていた。


 列車は走る。見知った風景が消えていく。景色が、浦原が遠くなる。
 それを見ながら、一護も一度だけ浦原に手を振った。
 相変わらずハチャメチャな始まりだったが、まあ今回も生きて帰って来れるだろう。


 一護は前を向いた。浦原は、もういなかった。