endless
ver.BLEACH


「勝手に生まれて勝手に生きて勝手に死んで…ホント自分勝手な人ですよねェ、君って」
「悪かったな、自分勝手で」

 恐らく死覇装を身に纏っている筈であろう背後の人物が声を掛けてくる。
 背後にいることはとうに気付いていたというのにも関わらず気付かぬふりをしていた自分に目をつぶっていた彼には本当に頭が下がる。
 それでもなお白々しく今気付いたと言わんばかりに振り返るのだ。

「おや、黒崎サン。どうっスか? あちらの状況は」

 そして己の想像通り、彼は黒い死覇装を身に纏っているのであった。
 それは死神である証。背の巨大な斬魄刀。明るい太陽色の髪。生前の頃と同じ姿。
 彼は特に考えることもなく言葉を紡いでいく。

「別に…フツーだよ、フツー。別に何か面白いことがあるわけでもねえし。日々平穏ってとこか」
「いいじゃないっスか。日々平穏、これに勝る物はありませんよ?」

 ――――あの戦いでのゴタゴタに比べたら、余程。

「ん…まぁな」

 あの戦いで結局彼は命を落とした。
 あれほど自分の命を大切にしろと言ったのにも関わらず、最後には結局他人の命を優先させて自分の命を犠牲にさせた馬鹿な子どもだ。
 ばかなばかなこども。そういうところは本当に昔から変わらない。

「…それで、本日はどんなご用件っスか? まさか正規の死神さんからお仕事が来るなんて思っても見なかったんスけど」
「お前、それ言ったらルキアはどーなんだよ」
「朽木さんは別っスよ。彼女はちょっと特殊でしたから」

 結局それがこの件の始まりだったのだが、気付いていながら彼は怒ることもなく。
 それは甘さなのか優しさなのか。

「浦原」

 真っ直ぐにこちらの目を見据えてくる視線から目線を外す。
 …あんな風に真っ直ぐ見られてしまっては、こちらの虚構がすべて剥ぎ取られてしまうから。

「俺、もうお前に会えないと思う」

 それはそうだろう。彼は正規の死神になった。
 その彼が裏切り者である自分に会えるはずがない。

「死神になんの断っちまったからな。俺もお前と同じで逃げまわんなきゃなんなくなっちまったんだよ。
 お前んトコに来たらお前に迷惑かかっちまうだろ」

 だから悪い、来れねぇわとすまなさそうに言った彼に珍しくも両目を見開いた。

「断った…って死神になるのをっスか!?」
「おう、スッパリ断らせてもらった。そうしたら上でごちゃごちゃ揉めだしたから面倒になって逃げてきたんだよ」

 あまりにも彼があっさりと面倒くさそうに言うからその事実に気付かないでしまいそうになるが、それはあまりの大罪ではないか。
 彼らの役目の一つは世界の手に余る物を管理すること。そして目の前の子どもは明らかにその区分に入る。

「じゃ、黒崎さんアタシと同じじゃないっスか」
「…アンタと一緒だってところが気にくわねえけど、まあ括り的にはな」

 憮然としながら子どもはそう言う。
 …なんだ、別に自分が諦めることはなかったのだ。
 ソウルソサエティがこの子を取っていくのだと思っていた。自分の役目はそれを見送ることだと思っていた。

 だがそれは間違いだったようだ。
 子どもは差し出された手を拒否し、今己の手元にいる。

「じゃあ黒崎サン」
「何だ?」

 だから一つの問いかけを。
 たった一つの純粋な願いを。
 何の打算もない、ただ一つの願いを。

「アタシの家族になりません?」

 さて、この子どもは何と返すのだろうか?