呼び声
ver.pop'n music
[[ ユリかご ]]


「かごめ」
 そう私の名前を呼ぶあの人の声は、昔から全く変わっていない。

 あの人はとても優しい。
 子どもの頃、私が人間界からメルヘン王国に迷い込んだときも当たり前のように保護してくれた。それは領主の仕事かもしれないけれど、でも真夜中に子守歌を歌ってくれたのはあの人の優しさだ。
 とてもとても忙しいけれど、かごめのお願いはどんなことだって叶えてくれたユーリ。
 きっとあの後、メルヘン王国での記憶を奪ってかごめを人間界に帰したのだってかごめのことを考えてに違いない。かごめは人間だから。

 だけど人間だからと言って、人間の中で暮らすのが正しいとは言えない。かごめはいつだって一人だった。
 かごめが唯一素直になれたのはユーリ城にいる時だけだった。ユーリとアッシュとスマイルとリデルとかごめで過ごしていた穏やかなとき、かごめはとても幸福だった。
 だから戻ってきたのだ、この城に。幼い頃奪われた記憶を取り戻して、唯一幸福になれる場所―――ユーリの元へ。

 それからかごめは様々なことを知った。吸血鬼というものがどういうものなのか、かごめの記憶を取り戻す手助けをしたのは誰なのか、領主とは一体何なのか、そしてユーリ自身のことも。
 ユーリは血を吸わない、いや血を吸うことは出来ない吸血鬼だ。だが誰かの血を吸わないと生きていくことは出来ない生命の、その本能を覆すことは出来ない。

「…ごめんなさい、ユーリ」
「何がだ?」

 ユーリは眉を潜める。だが彼はかごめが謝る理由など永遠に分からないのだろう。
 かごめはきっとどんなことでも利用するだろう。ユーリが血を厭っているのは知っている。だが本能が無視できないのもまた知っている。

 今はまだ、ユーリにとっては自分は子どもだけれど。いつかは。


 その為に、かごめは持てる力を全て使ってユーリに小さな体当たりを仕掛けるのだ。



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ユリかご編。
ユーリはとても優しいけれど、
かごめさんにはそれがとても辛いというお話。
ユーリが望むような関係ではいられないだから。