呼び声
ver.pop'n music
[[ アシュロキ ]]


 ふと気づいたら、アッシュはたった一人だった。


 この広いユーリ城、城は大きい割に住んでいる人数は少ないが何故か不思議と一人にはならないこの城の中、アッシュは現在たった一人だった。
 ユーリは領主の仕事で他の地方まで遠出をしている(ユーリが直接赴かなければならないらしい)し、スマイルとリデルはデートに出かけているらしい。かごめは新曲の打ち合わせに出かけてしまった。本当にアッシュはこの城にたった一人なのだ。

 がらんとした荒涼な空間。人の気配を感じられない、石造りの廊下をたった一人歩く。
 意外なことにユーリ城に住んでいる者はあんなにも少ないというのに、この城からはいつだってどこからだって誰かの気配を感じることが出来た。
 だというのに今はこんなにも寂しい空間になっている。アッシュにはそれが信じられなかった。

「……見事にがらんどうっスねぇ」

 人がいなければ掃除のし甲斐もあるのだが、こうも生活感を奪われてしまうと掃除をする気もなくなってしまう。そもそもここに人が住んでいないと考えれば正しいのではないのか。
 そう考えようとしていたその時、

「おい」

 背後から声を掛けられた。アッシュは驚愕のあまり背筋を震わせて振り返った。

「む、何かあったのか狼男」

 あまりのアッシュの驚きぶりに返って驚いたのか、振り返った先の彼女も驚いた表情をしていた。
 そこには灰色の髪に灰色の瞳、白い長衣を身に纏った彼女―――ロキがいた。

「あ、ロキさん…今日はユーリもスマもリデルさんもかごめちゃんもいませんよ」
「そんなこととうに知っておるわ。用があるのはお主にだ、アッシュ」
「………オレっスか?」

 目を丸くしてしまう。今まで自分はロキに呼ばれたことはない。そもそもさほど仲が良くないし、あまり会話もしたことがないような気がするのだが。
 だが彼女はすべてを見透かした瞳でアッシュを見るのだ。

「……お主、一人には慣れておらぬだろう」

 ドクンと胸のどこかが反応した。

「この城におる者は元々は孤独であった者達だ。そやつらは孤独に慣れているが…あまり一人になったことがないだろう」

 断言されてしまった。だが確かにそうだ。アッシュは孤独に濡れていない、孤独になれていない。だから今こんなにも戸惑ってしまう。

「以前からこの日のことを吸血王やスマイルも漏らしていたからな。今回は私が来てやった」

 ………正直言って馬鹿ではないかと思う。
 ユーリも、スマイルも、きっとリデルもかごめも。

(どこまで自分を甘やかせばいいのだ?)

 それは孤独に濡れている者から、日向で笑う者へと向けるたくさんの手向けの一つ。
 だけどそれを拒否しようと思うほど、アッシュも愚かではない。

「…ロキさん、今日は何で来たんスか?」

 冗談交じりに尋ねてみた。すると笑顔でロキは自信満々に答えた。


「お前のそばにいるためだ」



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アシュロキ編。
日向の匂いをさせる者と、太古より生きる魔女。
日向に生きる者に憧れてやまないのだ。