呼び声
ver.BLEACH


 呼ばれた。


 この名を、あの声が呼んだ。遠い地の果ての今際の際にあるあの魂に、この身は呼ばれた。
 確かにあの子どもは弱い。己が数週間ばかし鍛え上げてようやくそこらの隊長と呼ばれる死神と対等になったところで、あの子どもは戦闘経験が致命的に欠けている。それがなければ子どもはいとも容易く死んでしまうだろう。
 そのことを浦原は知っていた。子どもが自惚れていたわけでもないことも知っていた。だがそれでも、浦原は子どもを送り出した。

 子どもが望んでいたから、というのもある。だがそれ以上に浦原は誰にも邪魔をされたくはなかった。
 現在浦原は崩玉の仕組みの解明をしている。自分が唯一放棄してしまった遺産。今は藍染の元にあるが、元のデータはきちんと浦原の頭の中に残っている。
 それを解明中だというのに、

(いくらなんでも早すぎる)

 あの子どもが死ぬのはもう少し先でなければならない。せめてこの崩玉の仕組みが解明するまで。ついでにいうと浦原が何か有効な手段を思いつくまで。
 だけどそれは不可能だろうと浦原は推測する。ここが子どもの墓場ならば、それもまた仕方がない。
 いずれ世界は藍染達に取って代わられるだろうが、別に浦原にとってはあの子どもがいないのならば世界などどうでもいい。

(だけど君が泣くだろうから、その時はこの身と一緒に藍染を巻き込んでみようか)

 それもまた一興と笑おうとしたところで、浦原の背後に一つの気配。
 夜一だ。

「行かぬのか」
「ええ」
「呼んでおるぞ」
「そうですねぇ」

 空返事を返す。ああ、そんなことは当然のことだ。

「アタシにはアタシのやるべきことがある。それもやらずにあの子の元に行ったら、アタシはあの子に殺される」

 今あの子どもが死にそうになっていても。
 だけどそんな瀕死の時だろうと、自分が駆けつければあの子どもはきっと「何で来た」と怒鳴り散らすのだろう。


(だから行かない)
(君が死にそうだろうとなんだろうと)
(もう、絡め取る手段はあるのだから)


 浦原は小さく笑った。