呼び声
ver.Reborn!
[[ ヒバツナ ]]


 ヒバリさん、とウチのボスは僕のことを呼ぶ。
 僕の記憶が確かなら、それは10年前から全く変わっていない。

「君、その呼び方やめたら?」
「何でですか?」

 相変わらず草食動物じみた顔で(中身は凶暴な肉食動物が眠っているというのに)僕を見る。

「ボスが部下の名前に敬称つけてどうするの」
「いやー…ええっと…でも、ヒバリさんはヒバリさんですし」

 駄目ですかね、と情けなさそうに笑った綱吉をはっ倒したくなったのは僕だけではないはずだ。(きっとこの場に赤ん坊がいたのならば、赤ん坊だってそうしたはずだ)
 僕は改めて綱吉を見る。
 10年前よりは伸びた身長と体に付いたしなやかな筋肉、大人びで丸みが取れた顔立ち。僕とか以外の前ではボスと呼ぶ風格に相応しいものを持っているというのに。

「台無しだね」
「何がですか!?」

 先ほどまでの会話と全く繋がっていなかったためか、綱吉が大仰に驚いてツッコミを入れてくる。僕はそれに「別に」と返してさらりと流した。

「それで?」
「はい?」
「やめるの?」

 トンファーをちらりと突き出してみる。

「それって選択肢一つしかありませんよねぇ!?」
「そうだね」

 頷いてやると、綱吉は諦めたように項垂れた。

「じゃあ分かりました! 雲雀、もしくは恭弥! これでいいんですか!?」

 投げやりに言い放った綱吉はそのままため息を吐いている。

「―――」
「あの、ヒバリさん?」

 呼び方が元に戻っている。だからあれほどボスとしての威厳がなくなるからやめろと言ったのに。
 だけど、

「……なんかムカツく」
「へ?」

 突き出したトンファーをそのまま綱吉に向けた。
 勿論綱吉はグローブで受け止める。

「なな、何ですかヒバリさん!」
「ムカツいた。だから付き合ってよ、綱吉」
「だから何にムカツいたんですか、ヒバリさんは!」

 僕がそれを言うことは決してないだろう。

(呼び捨てに違和感を感じたなんて)
(さん付けの方がいいなんて思ってしまったなんて)
(決して言わない)

 そうして僕はトンファーから仕込み鉤を出した。



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きっとツナは10年後になっても
雲雀さんのことを「ヒバリさん」と呼ぶのだろう。