お疲れ様でした。
ver.REBORN! どうしてこんなに疲れているのか、ツナにはさっぱり分からなかった。 今日は確か特に何もしていない。別にリボーンに死ぬ気弾を撃たれるようなことも、獄寺君と山本と一緒に厄介ごとに巻き込まれるようなこともなかった。所謂平々凡々な日々。ありきたりで、だからこそ尊い一日だ。 今日はそんな風に過ごした。普通に授業を受けて、普通にみんなと喋ったりして。何にも怖いことなんかなくて。 だというのに、どうしてこの体はこんなに疲れているのか。ツナにはさっぱり分からなかった。 体が重い、頭が痛い、頭痛なんて久々だ。風邪を引いたわけでもないのに、どうして。だけどこういった体調不良は理屈じゃない。今日は早く家に帰ってさっさと寝よう。 そう考えて廊下を歩いていたら、目の前からやってくるあの人は―――― 「…ヒバリさん」 「やあ、綱吉。今から帰りかい?」 「あ、はい、そうです」 いつも通りの学ランを着込んだヒバリは、黒耀中戦に手懐けた鳥を一匹肩にとめ、ツナに声をかけてきた。今日はトンファーを持っていないと言うことは、少なくとも殺し合いをするつもりはないらしい。今のところはだが、今はそれだけで十分だ。 ヒバリの問いに茫洋とツナは答えた。声がどうもはっきり通らない。これは相当危ないのかもしれない。 今にも眠ってしまいそうだが、ヒバリが目の前にいる状況でそんな様を見せられない。 「…調子が悪そうだね」 だがヒバリには早々見抜かれてしまったのか、そんなことを言われてしまった。ツナももう隠す気力もないので素直に頷いた。 「なんか、具合が悪くて…。多分疲れてるんだろうとは思いますけど」 ツナの答えにヒバリはふぅんと相づちを打つ。特別興味はなさそうだった。 「なんで、今日はちょっと早めに帰らせていただきます…。すいません、お菓子、作ってきてくれてたんでしょう?」 「別に、構わないよ。そういうことだったら早く帰ったらどう? 僕なんかと遊んでないでさ」 「…はい、そうします」 ここで挨拶もせずに帰ったら確実に殺されることが間違いなかったから声をかけたんだけど、などなど様々な文句が心の中で嵐のように吹きすさんでいたがそれを口に出すことはなくツナは弱々しく笑った。 「それじゃ、ヒバリさん。失礼しますね」 「ああ、またね」 ツナはヒバリにそう言って踵を返した。ああ、本当に今日は駄目みたいだ。頭痛と目眩と眠気と、それから足下の感覚が覚束ない――――。 「って、あれ…?」 いつの間にか、ツナは前のめりで倒れかけていた。今はヒバリの腕がツナの体を支えているからどうにか倒れ込んでいないだけで、その腕がなかったら確実に倒れていただろう。 「あ、ヒバリさん…。ありがとうございます」 「…全く、何やってるの」 ヒバリからの呆れた声。流石にそうだろう。帰ろうとした瞬間に倒れ込むなんてどうかしている。そんなに調子が悪かったのか、自分は。 「…ここで僕が君を送るっていうの手もあるんだけど、まずは君の体調が回復しないと話にならないね。 ――――着いておいで、場所くらいなら貸してあげるよ」 ヒバリはその言葉を言うや否や、ツナを連れたままさっさと歩き出してしまう。そしてツナといえばあまりの展開の早さに呆然としていた。ええっと、これは一体? 「えっと、ヒバリさん。どこに連れて行ってくれるんでしょうか」 「応接室だよ。休憩する場所ならある。今は保健室に行っても休めるとは思えないしね」 それはそうだ。今保険医として保健室を陣取っているのはあのシャマルなのだ。男にはぞんざいな扱いしかしないあの男が、こんな状態だろうがツナをベッドで休ませてくれるとは思えない。 「あ、ありがとうございます…。でも、いいんですか?」 「嫌だったらそもそもこんなことしないよ、僕は」 それだけを言い放つと、ヒバリは何も言わずにツナをずるずると引きずっていく。そういえばそうだ。この人は基本的に面倒なことはしないし、自分の気が向かないと何もしないのだ。そう、例え目の前で誰かに倒れられても、だ。 だけど、ヒバリはツナを助けてくれた。それは彼の優しさだ。 「…ありがとうございます、ヒバリさん」 「別に。口動かす暇があったんなら、きちんと自分の足で動いてよね」 「あ、はい。すいません!」 ツナは慌ててヒバリの腕の中から抜け出して、きちんと自分の足で立つ。多少足下が覚束ない点があるが、まあ大丈夫だろう。先ほどのようなことにはならないと思われる。 「…大丈夫かい?」 「はい、行けます!」 ヒバリの気まぐれのような優しさがくすぐったくて、ツナは微かに笑んだ。こんなのもまたいいなと思った。 そうして、二人して応接室への道を歩いていくのだ。 ---
疲れ切っているツナと雲雀さんの優しさ。 この人は気まぐれに優しいといい。 |