お疲れ様でした。
ver.pop'n music 爽やかな朝がやってきた。その朝はやはりありふれた物で、だがそれこそが一番の幸福なのだとリデルは朝がやってくる度に思う。 からからとカートを押す。カートに乗っているのは軽食の類。胃に負担の懸けない、ほとんど病人食にも近い食事だ。 今回は少し多めに作ってしまったかもしれない。だが仕方がないではないか。よく食べる人間が3人も部屋で寝転けていて、しばらく何も食べていなかったというのだから。 それに手伝いとして今回は前日やってきたヒューとテトラがいたのだ。こんな状況だったから二人とも手伝ってもらった。遊ぶどころではなかったが、今回ばかりは仕方がないと諦めてもらった。 リデルはある部屋にたどり着く。カートを扉の前に置いて、ひとまずノックをする。コンコン、コンコン。木を叩く音。中からは何の反応もない。それを承知していたのでリデルも何の心配もなく扉を開けた。 ――――中は相変わらずの地獄絵図だった。机に転がる空になった大量の栄養ドリンク、食い散らかした食料、飛び散るインク、散乱している原稿、その中に突っ伏して死んでいる三人の死体。 勿論その三人はユーリ、アッシュ、スマイルだ。どうやら原稿は終わったらしく安らかな顔で眠っている。 相変わらず泥のように眠っている三人。眠りに沈み込んだ精神を引き上げるのは今は困難だ。 リデルは三人を無視して、まずは机の上を片付ける。用意していたビニール袋に散乱しているゴミをてきぱきと片付ける。 それなりに綺麗にはなってきた。それでは彼らの眠りを妨げないように己は退室していよう。リデルはカートを置いて部屋を出ようとした。 「…リデル?」 扉に手をかけようとしたところで懸けられた声。どうやらスマイルが起きたようだ。リデルは思わず振り返る。 「スマイル? 起きたの?」 「…起きた? あぁ、うん、僕寝てたんだ…」 「寝ぼけているわね?」 明らかに寝ぼけていると思われる反応。だがリデルはスマイルに近づく。スマイルはぼんやりとした瞳でリデルを見ていた。 「今は眠りなさい。徹夜明けで疲れているのでしょう?」 「…あー、うん、そうなんだけど」 「? どうしたの?」 珍しく歯切れの悪い言葉にリデルが不安になる。 「…一緒に寝よ?」 ――――思考が停止した。 突然言われた言葉にどうすればよかったのか、リデルにはさっぱり分からなかった。だけど考える暇もなく、リデルはスマイルに抱きかかえられていて…。 「…スマイル」 「今くらいは一緒に寝てよ…」 今くらいは、などと言わずほとんど毎日一緒に寝ているのだけれど、そういうことは完璧に無視してスマイルは再び深い眠りの淵に入ってしまった。 しかしこの体勢で一体どうしろと言うのだ。スマイルに抱きかかえられた状態でリデルは思う。 視界の端に大量の朝食が積んであるカート。それから死んでいるユーリとアッシュ。かごめは今日はレコーディング。ここはスマイルの腕の中。 ――――…まあ、いいか。 スマイルも徹夜明けで疲れているようだし、リデルも最近は何となく疲れていた。だからまあ、こんなところでお休みを入れてもいいのかもしれない。 頭上からスマイルの安らかな寝息。リデルに心を許している、その証。 「…お休みなさい。そして、お疲れ様、スマイル」 そして、リデルも瞳を閉じた。 |