disillusion


「いい加減、そのお姫様面やめたら?」
「お姫様…面?」
 殴られた顔が痛い。腹が痛い。足が痛い。体中全部が痛い。
 だけどそれ以上に、今はヒバリさんの言っている意味が分からない。
「そう、自分が危なくなったら絶対に『誰か』が助けに来てくれるっていう顔だよ。見てるこっちがイライラして吐き気がする。
 確かに君が危険だったなら誰だってその身を捨ててまで君を助けてくれるだろうね、なんたって君はボスだ。部下はボスの為に死ぬ。それも当然。だけどそれは君一人の弱さの為に回りの大勢を犠牲にすることに他ならない」
「獄寺君達は…!」
「死なないって? 誰が保証するの。君の部下が死ぬ時は絶対に君を守ってだよ。君がそのお姫様面してる限り。君がいつまでも誰かを頼って自分から強くなろうとしない限り、彼らの死は確実だ。
 誰が守ってくれるって? そんな甘ったれた考えを持ってるくらいならいっそのこと今僕が咬み殺してあげるよ。そんな人間がボスになるなんて部下にとっては不幸なことこの上ない。
 自分を守ることができるのは自分だけだ。それすらできないって言うんなら、ボスになる資格以前の問題だ。生きてる資格すらないよ」
 ヒバリさんの言葉に、俺は返すことができなかった。
 確かにそうだ。俺の回りのみんなは強くて、俺が強くならなくても十分で、みんな率先して敵と戦ってくれて。
 ――――でもその為に、幾ら彼らを傷つかせてきた?
 獄寺君も山本もみんなも、…ヒバリさんも、俺の為に戦って、俺の為に傷ついて、それで何回傷ついたかわからないくらいだ。
 みんな、多分。俺の為に命を落とす覚悟なんてできてるんだ。だから俺の為なんかで戦うことができるんだ。

 なのに、――――なのに!
 俺一人だけ覚悟ができてないってことはないだろう!

 ヒバリさんが何も言わない俺に痺れを切らしたのか、いつものようにトンファーを振り下ろしてくる。俺は何をするわけでもなく、冷静にそれを見ていた。

 …最初は成り行きだった。
 突然やってきたリボーンにいきなりマフィアのボスだって言われて、それからはリボーンの言われるままにやってきたような気がする。(だってリボーンは怖かったから)
 そうしたらいつの間にかダメツナって呼ばれてた俺にも友達ができて、仲間って呼ばれる人もできて、いつの間にか俺の回りはとても暖かくなっていて。
 だから、マフィアになるのもいいかなって思った。みんなが一緒にいてくれるなら、マフィアでもいいって思ったんだ。…だから今、ヒバリさんに特訓を受けてるんだけど。

 ――――みんな、俺の為なら死んでもいいって言った。
 あんまりにも簡単にそう言い切ってしまったから、俺はその時言われた言葉の意味がわからなかったけど、今なら分かる。
 みんなは本気で俺の為に死んでもいいって言ってる。なら俺は? 俺はみんなの為に死んでもいいって思ってる?
 答えはノーだ。俺は、死にたくない。死ぬのは怖いし、痛いのも怖い。傷つきたくない。だって怖いから。自分の為に死ぬのも御免だし、他人の為に死ぬのも嫌だ。

 だけど――――だけどさ。
 みんな部下ボスの為に命張ってくれるんならさ。
 ボスみんな部下の為に命賭けなきゃダメだろ?

 襲い来るヒバリさんのトンファー。俺の脳天直撃コース、当たったら確実に死ぬ。ヒバリさんも確実に殺すつもりでやってるんだから当たり前だけど。いつもなら残像しか見えなかったソレが、なぜか今俺の目はスローモーションで捉えていた。
 スローモーションで降ってくるトンファー。ヒバリさんの殺意。
 戦う前にリボーンに渡されたデリンジャー。さっきヒバリさんに殴られた時に床に落とした。
 それが今、目の前にある。

 思わず拾った。何も考えずに拾った。そしてそのデリンジャーをヒバリさんのトンファーのルートに重なるように両手で構えて――――

 そして、金属同士の弾ける音がした。

 手がジンジンと痺れてる。もう今日はこの手は使えないかもしれない。でも、
 でも初めて、生まれて初めてヒバリさんの一撃を防ぐことができた。これだけで俺にとっては物凄い快挙だ。

「…上出来だよ」

 頭上ではトンファーを食い止められたヒバリさんが笑っている。なぜだか妙に嬉しそうに。

「ヒバリさん、俺、決めました」
「何を?」
「みんなの為に、強くなることです」

 俺がみんなの為に命を賭けるって決めたんだから、だからまず俺が強くならなくちゃ。
 俺がまず強くなって、みんなを守れるくらい強くなって。そうしたら、
 だからまず強くなる。強くなるって、決めたんだ。

「…僕には関係ないことだね」
「はい、でもありがとうございます」
「…礼を言われる筋合いもないけど」
「はい、わかってます」
「なら、別にいいけど」
 先ほどと全く同じ体勢で俺とヒバリさんは会話をする。
 俺がヒバリさんを好きだなと思うところはこんなところだ。ヒバリさんは当たり前のように俺に世の中の酸いも甘いも見せてくれる。
 獄寺君や山本はあくまでも甘い部分しか見せてくれなくて、だからそれがすべてなのだと錯覚してしまう。
 俺は馬鹿だから。世の中の酸いも甘いも噛み締めないと、理解出来ない馬鹿だから。だから、ヒバリさんみたいな人が必要なんだ。

「…ありがとうございます、ヒバリさん」
 そう言って笑って、俺はデリンジャーをトンファーから離して、静かにそれをヒバリさんに向けて構えた。


***
中途半端に終わる。
とりあえずよく分からないもの。
多分バトルが書きたかっただけ。