愚者達の悲哀


「何があっても! オレはアンタの味方ですから!」

 突然の俺の言葉に、あの人は目を丸くした。

「突然どうしたんだ?」
「えっと…なんか、言わなくちゃいけないって思って」
「ああ、そう言ってくれるのは嬉しいけどそんなこと無闇やたらに言ってはいけないな、シン」
「…何でですか」
「だって、俺達は軍人だ。軍人は軍の味方で、国の味方で、国に住む人たちの味方だ。俺一人の味方なんて言っちゃダメだろ」
「でも、オレは」
「でも、国家にもいずれ綻びが生じる。何を信じればいいのか分からなくなるときもある。そういう時は、きちんと自分で考えて、行動して、それでもしも俺がシンの敵だと分かったときこそ、必ず俺を殺さなきゃならないぞ」

 涙が出そうになった。泣きはしなかったけど、泣きたい気持ちになった。
 その人は、そんな残酷なことをひどくあっさりと言うのだ。
 オレにそんなこと出来るわけがないのに。

「…それ、本気ですか」
「ああ、本気だよ」

 殺せるか? ――――殺せない。
 傷付けれるか? ――――傷付けれない。
 だから、両手で拳を握って、歯を食いしばって言った。

「…それでも!」

 アスランは暖かい眼差しでオレを見ている。こんな視線を、以前にも感じたことがある。
 それは、まるで親のような、マユのような。暖かな慈愛。

 オレになら殺されてもいいって? オレになら撃たれてもいいって? そうじゃないだろうそれは違うだろう本当ならもっと言いたいことがあるんだろうアンタ殺されたくないって!
 そんな物わかりのいい顔をしないでくれよ。もっと、もっともっと足掻いてくれよ。死にたくないから戦って、殺されたくないから戦って、それの何が悪いんだ。
 そう言えば、少しはこの心も楽になるのに。アンタの心の重荷も軽くなるのに。
 あぁ、だからアンタは馬鹿なんだよ。そんな風にアンタが馬鹿だから、オレは何も言えないじゃないか。

「それでも、オレはアンタの味方ですから!」

 そう言うと、あの人は驚いたように緑の目を瞬かせ、それから何も言わず嬉しそうに笑った。