デーセバ5題
※デーセバと書いていますがデーデマン+セバスチャンです。 1 仕事をしない理由 「ところでさぁデーデマン。何で君って仕事しないの?」 ある日の昼下がり、珍しく仕事をしていたデーデマンに、デーデマン家にやってくるのは特に珍しくはないが、珍しいことにセバスチャンやヘイヂの元ではなくデーデマンの元を訪ねたユーゼフは悠々とお茶をしていた。 「何でって…何で?」 本日のデーデマンは比較的やる気なのか、ユーゼフを見ることもなく紙に企画を書き上げていく。決裁済み書類は既に50枚を越えている。そのうち何枚かはセバスチャンに駄目出しをされることだろうが、別に今のデーデマンはそんなことを気にしない。何故なら本当に珍しくやる気だからだ。 だから今はデーデマンの隣にセバスチャンもいない。今日のようなデーデマンならば逃げ出すこともないだろうと分かっているからだ。 「君って今日みたいにやる気になったらとことんやるだろう。でも僕が見る限り君ってそうなったときも敢えて見逃してるような気がするんだよねえ…」 ピタリとデーデマンの手が止まる。 「…よく見てるねえ、ユーゼフ」 「僕に隠し事が出来るとでも?」 「いや、思ってないけどさ」 首を振って否定するや否や、すぐさま再び書類に目を走らせるデーデマン。こういうデーデマンをあまり見たことがないのか、ユーゼフは物珍しそうにデーデマンを見ている。 「それで? 何で君って仕事しないの? デーデマン。普通にやればそれだけ出来るのに」 ユーゼフの視線の先にはデーデマンが作り出した決裁済みの書類の山がある。先ほどよりも数十枚は増えただろうか。 本来ならばデーデマンはそれだけの能力があった。ただ本人にやる気がないから眠っているだけなのだ。 「やる気がないから…じゃ駄目?」 「駄目。今度から君の紅茶に毒でも仕掛けようか」 「毒なら大丈夫だよ。セバスチャンとか他の人達ので慣れたから」 さらりと何か不穏なことを言い捨てて再び書類に没頭するデーデマン。しかしここにそんなことを気にするような人間はいなかったので、あっさりとデーデマンの発言は放置されてしまった。恐らくここにAやB、もしくはツネッテがいたら気にされたのだろうが、ユーゼフもいい加減長い付き合いだった。 ふと書類を書く手を止めたデーデマンは呟いた。 「………僕はね、ユーゼフ。セバスチャンが大好きなんだ」 「ああ、そりゃあねえ」 あれだけおおっぴらに表現しているとなると今更言われずとも分かる。 「だけどセバスチャンは僕のこと好きかどうか分からないし…だからせめて出来るだけ独占したいんだ」 セバスチャンは誰にでも優しいから、とデーデマンは小さく笑った。 普段の底抜けに明るい子どものような笑みとは全く違う大人びたそれは、普段の彼らしさはなかったがそれでもどこか似合っていた。 ふぅんとユーゼフは小さく呟いて紅茶を啜る。今日の茶葉はアールグレイだろうか。セバスチャンはあれでもユーゼフの好みを理解しているので多分そうだろう。 デーデマンも再び書類に戻る。ユーゼフの反応は期待していなかった。彼はそんな人間だからだ。 「それにさ、」 最後にもう一度だけデーデマンは手を止めた。 「僕が仕事をやらなかったり悪戯なんかすると、セバスチャンは絶対に僕のこと構ってくれる。それが嬉しいんだ」 呟かれた言葉は子どものそれで、彼は普段のように無垢な笑顔を浮かべた。 「で、ユーゼフ。聞きたいことってそれだけ? なら僕は仕事に戻りたいんだけど」 「ああ、仕事中に悪かったねデーデマン。面白い物が聞けたよ」 「ふうん、まあいいけど。あ、これセバスチャンには内緒でね!」 「了解。僕からは誰にも言わないよ」 「じゃ、またねユーゼフ」 立ち上がったユーゼフに軽く声を掛けて、デーデマンはようやく書類に目を向ける。これで当分デーデマンは何者の言葉にも反応することはないだろう。 そして書斎の外に出たユーゼフと言えば。 「というわけだよ、セバスチャン」 「………そうですか」 ユーゼフのティーカップを片付けるついでに、デーデマンの三時のおやつを持って来たセバスチャンにユーゼフは面白そうに声を掛ける。 「いや、本当に面白い物が聞けた。デーデマンがあんな風に考えていたとは思いもしなかったよ。君も聞いたことがないよね? セバスチャン」 「ええ」 淡々と相槌を打つセバスチャンの反応はそれだけで、後は己の職務を全うしようと書斎に入ろうと足を運ぶ。 そこに茶々を入れるユーゼフの声。 「デーデマンなら、しばらく誰の言葉も耳に入らないと思うよ」 「大丈夫です」 そこに絶対の自信を持ってセバスチャンは書斎へと入っていく。その姿に目を見開いた後、ユーゼフは笑った。 全く面白い話を聞いたものだ。『セバスチャンが僕のことを好きかどうか分からない?』少なくともセバスチャンは嫌いな人物に仕える程出来た人間ではないだろう。むしろ図太い人間だ。そうでなければデーデマン家で13年も仕えることはできないだろう。それに今の今まで何回も言葉の上では辞めると言っておきながら最終的に辞めたことはない。 確かにデーデマンを蔑ろにすることもあるだろう。だが毎度毎度きちんと悪戯にも付き合ってやっていることに加え、最終的に困っていたり疲れ切っていたりするデーデマンをセバスチャンが蔑ろにしたことは一度もない。 そしてセバスチャンがデーデマン家に仕えた13年前から、日々欠かしたことのないセバスチャンお手製のおやつを見れば一目瞭然だというのに。 何故それに気づかないのだろうか。それが当たり前になっているからだろうか。 だがそれをユーゼフも教える気はないのだ。 「全く…傍にいて欲しいなら傍にいて欲しいってはっきり言えばいいのにねえ」 まるでいじめっ子のような愛情表現しか出来ないデーデマンにぽつりと呟いて、ユーゼフは大人しく自分の住処に帰っていくのであった。 ちなみに次の日からデーデマンに対するセバスチャンの対応がほんの少しだけ優しくなったように感じるのは…、気のせいではなかったりする。 ***
意外とセバスチャンはデーデマンを構っているような気がする。 長い付き合いなので、そういうところが分からなくなってしまったのか。 ちなみユーゼフとデーデマンはそこそこ仲が良いお隣さん。 2 笑ったときの 3 あなたがいなくちゃ 4 ホントの事言ったら怒られる 5 すべて計算ずみ |