天の味方は誰の物?


 天の味方は誰の物?
(それは勿論貴方の物です!)


 鼓動がうるさい。

 心臓がバクバク言っている。目の前の相手に伝わってしまいそうな程、大きな音。今すぐここから逃げ出してしまいたい。
 だけどそれでは一体何の為にここまで来たのか。ここで逃げ出してしまえば、自分は再び『ダメツナ』になってしまう。いや、今でもダメツナだけど、そんなんじゃ自分に着いて来てくれた人に申し訳が立たない。
 男、沢田綱吉。一世一代の晴れ舞台!

「あの、ヒバリさん!」
「ん? 何?」
 優雅にソファに座って紅茶を飲んでいた人が顔を上げる。
「お願いがあるんですけど!」
「うん、それで、何?」
 ツナは勢いに乗ったまま、呼吸すら挟まずに言う。今も心臓はバクバク、きっとそうでもしなければ全部言い切ることは無理だ。
「俺と一緒にイタリアに着いてきてください!」
「うん、いいよ」

「…へ?」
 あまりにもさらっと答えが出てしまったので、ツナの頭は真っ白になってしまった。

 ツナの反応が気に食わなかったらしく、ヒバリはソーサーにカップを置いてツナを睨む。
「いいよって言ったの。何? 君は断られた方が良かった?」
「い、いやそうじゃなくて! だってヒバリさん、群れるの嫌いって…、それに! 俺と一緒にイタリアに行くってことは、マフィアの仲間入りなんですよ?!」
 何をこんなに必死になっているのか、彼がこちらにやってくるのだから素直に喜べばいいのに。否定など意味はないのに。
「確かにそうだけど。でも、僕はファミリーの一員になるつもりはないよ。僕が従うのは君だけだ、綱吉。君が命令したときだけ、僕は動こう」

 ヒバリは笑った。いつもの不穏な笑みではなく、不敵に綺麗に笑った。
 ――――ああ、もしかしたら自分は、彼に一番着いて来てほしくて、そして一番着いて来てほしくなかったのかもしれない。
 だってこの人は、いつだってどこだって勝手に死んでしまいそうで、マフィアなんかになったらそんなことが当たり前になって。
 でも、そんな答えを返されてしまったら、ツナにはもう成す術がない。この人のことだ、今更ツナが拒否しても無理にでもイタリアに着いて来るだろう。

「…じゃあ、ヒバリさん。本当に着いてきてくれるんですか?」
「……しつこいね、君も。今からでもいいから取り消そうか?」
 ヒバリに剣呑な雰囲気が宿る。ツナは慌てて否定した。
「いや、いいです! ありがたく受け取っておきます!」
「そう、人の好意は素直に受け取っときなよ」
「……はい」
 それで今までどんな目にあってきたと思ってるんだ。確かいいことばかりじゃなかったぞ。
 そうは思いながら、ツナは何も言わなかった。言わぬが花というやつだった。

「それで、いつ出発?」
 ヒバリが一番重要なことを尋ねてくる。ツナは気まずそうに言った。
「あ、そのことなんですけど。…明日、なんです」
「……それはまた、随分と急だね」
 呆れたような雰囲気だ。でも言い出せなかったのだから仕方がない。
「みんなには前から言っておいたんですけど、ヒバリさんにはどうも言い出せなくて…。着いてきてくれる確証もなかったし」
 他のみんなは何だかんだ言いながらも着いて来てくれるっていうのが分かっていたからよかったが、この人だけは分からなかった。だって群れるの嫌いだし、凄い気まぐれだし。
「…綱吉」
「はい?」
「今度から真っ先に僕に言うこと。じゃないと噛み殺すからね。分かった?」
「……はい、分かりました。以後気を付けます」
 ああ相変わらずこの人はこんな人なんだろうなあ。多分ツナがボスになっても、その10年後でも、100年後でも、この人は相変わらずこんな人なんだろうなあ。
 そして自分も、相変わらずこんな風であったらいい。

 そう思ったら、ツナは少し笑ってしまった。
 そんなツナを見て、ヒバリが不可解そうな顔をした。


***
ヒバリさんを誘うときはこんな風であったらいいなあと思う。
あっさりと了承してくれたヒバリさんに戸惑うツナ。
ちなみに何年後かは不明。ご想像におまかせします。