lignaggio e bambino
相変わらずの3時のお茶会。 ツナはヒバリと一緒に紅茶を飲み、ヒバリの手作りのお菓子(今日はジャム付きスコーン。どうもジャムも手作りらしい。本人は言わないけど)を食べ、ヒバリと他愛のない話をしていた。 ツナは和やかな雰囲気の中、突然むぅと顔をしかめながら話を切り出す。 「そういえば、ヒバリさん。俺、最近リボーンから子ども作れって言われるんですよ」 「ああ、いいんじゃないの?」 どう思いますと問う前の即答。ツナはぽかんと口を開ける。 「え、って、ヒバリさんっ!?」 「僕は別に賛成でも反対でもないよ。こんな仕事に就いてるんだから確かに子どもを作れっていうその論理も分かるし。マフィアのボスなんていつ死んでもおかしくないのに、綱吉は後継者の一人もいない。赤ん坊が心配に思うのは当然だ。 それに綱吉、女を抱いたことないでしょ、君」 「…ええ、まあ、はい。ヒバリさんに奪われましたけどね、二つとも」 ヒバリの口から出ている言葉はすべて事実だ。事実だからこそツナは酷く悲しくなって、カップを口に運んだ。ああ、今の俺を癒してくれるのは君だけだよ。 「それはいいことだね。一番最初が僕だなんてついてるよ」 「…何でですか」 「だって巧いでしょ?」 何の恥じらいもなく言い張ることのできるその根性に天晴れだ。というかこの人に恥じらいなんて物があったらそれこそ怖い! 確かに巧い(あくまでも現在進行形)のは認めるが! 「でも、ヒバリさんは何でそんな躊躇いなく、俺に子どもを作れって言うんですか。リボーンが言うのは分かるんです、リボーンはボンゴレの為を思って言ってますから。それなのに、何でヒバリさんは…」 「別に、特別なことじゃないでしょ。子孫を作ろうとするのは生物が持っている本能だと思うけど」 「だから、話を逸らさないでくださいよ!」 ダン、とツナは勢いよく机を叩く。ヒバリはツナの行動にも何の興味も示さず、優雅に紅茶なんて啜っている。 「俺は、ヒバリさん以外とは嫌です」 「ふぅん、それは光栄だね」 あくまでもはぐらかそうとするヒバリに、ツナはソファに深く腰を下ろしてため息を吐いた。…ああ、この人は言うつもりはないのだ。何が何でも言うつもりなどないのだ。特に自分には。リボーンには言うかもしれないが。 辺りに奇妙な沈黙が走る。今までになかった、気まずい沈黙。まるで学生時代に戻ったかのようだ。あの頃は自分はとてもこの人に対して怯えていた。 「…君は、僕が殺す」 沈黙の中、ぽつりとヒバリは漏らした。ツナは慌ててどこかに飛んでいた焦点を合わせてヒバリを見る。 「でも、君はマフィアのドンだ。ドンはいつだって危険だって相場は決まってる。君だって、就任した頃には暗殺者とか送られてきたから知ってるよね? 綱吉。 君はその頃に比べたら強くなった。僕と子どもが二人係りで鍛錬してるんだから当然だけど、でも、君はまだ人を殺したことがない。それがどこで弱さに変わるか分からない。最悪の場合は死ぬかも知れないね。 だから、不慮の事態が起こって君が死ぬ前に、君の遺伝子をこの世に残しておきなよ。そうしたら、僕がその子の一番の味方になってあげる」 言い終わり、ヒバリは紅茶を口に含んだ。ツナはぼんやりとヒバリを見る。 それが、ヒバリの本音なのかは分からない。本当かも知れないし、嘘かも知れない。ツナには判断することすらできない。だって今の今まで、自分はこの人の嘘を見破ったことがない。そもそもこの人はあまり嘘をつかないから。 …そう考えれば、この言葉は本当なのだろうか。本当なのか、嘘なのか、分からないけど。でも、ツナはこの人を、この人の言葉を信じることにしている。 「でも、ヒバリさん。俺はやっぱりいいですよ、子どもなんて。ボンゴレファミリーは他の分家の人達に任せます。後継者争いも面倒くさいし」 リボーンに任せれば、どんな人だろうと立派にマフィアのボスになってくれるだろうし、とツナは朗らかに笑う。 ヒバリは笑うツナに首を傾げた。 「ふぅん、何でだい?」 「だってヒバリさん、俺の子どもの味方になってくれるって言ってましたけど、それは俺の味方みたいに、俺の子どもの味方になってくれるってことですよね」 「そのつもりだけど、何」 「だったらやっぱり遠慮しておきますよ。うん、その方がいいや」 ツナはヒバリには何も告げずに自己完結する。そして未だ手に持ったままのカップを口に運んだ。ああ、やっぱりヒバリさんの選んだ紅茶は美味しいなあ。 「…綱吉?」 ヒバリがトンファーを閃かせようとしている。この人、自分の分からないところで自己完結されるのとか大嫌いな人だからそれは当然だ。自分は勝手に自己完結するのに。 ツナはカップをソーサーに戻して、そしてもう一度笑った。 「だって、それだったら子どもが可哀想ですよ。 ヒバリさんが味方なんて、命が幾つあっても足りませんから」 今までのツナに対するヒバリの行為を思い出す。出会った頃にはいきなりトンファーで殴られ、学生時代にこの人のお陰で被った被害はあまりにも多すぎて口に出すのも憚られる。ボスに就任してからなんて、この人は堂々と俺を殺しに来たりする。 でも、肝心なときに有能で、とても心強くて、何度も何度も助けられた。何度も何度も助けてくれた。 そんな人が、ツナだけにどこか優しかったこの人が、ツナの子どもに優しくしているのは、何だか癪だ。それがツナが死んだ世界だったとしても、それでも、この人には自分だけの味方であってほしいのだ。 「だから、やっぱりいいです。だからヒバリさんは、俺の味方でいてくださいね」 そして、ツナはヒバリを見た。ヒバリは、やっぱりどこか不可解そうな顔をしていた。 |