allodola osso


「…ヒバリさんって、」

 ツナは素肌の上にシーツをまとわりつかせた状態で、ベッドに寝そべりながら既に服を着ようとしているヒバリの背中を見た。
 つれない人だ。久々に同じ一夜を過ごしたというのに。
 だけどまあ、それも彼らしくていいといえばいいのだけれど。

「意外と体格しっかりとしてますよね」

 ヒバリはその華奢な見た目とは裏腹に意外としっかりとした骨格を持っていた。流石に山本のようにがっしりとまではいかないが、それでもかなりしっかりとしているだろう。
 別に驚くべきことではないのだ。彼はファミリーの重要な戦力の一人、今までその腕で何人の草食動物を屠って来たことやら。だがそれでも少し意外に思えてしまっただけだ。

「突然何?」
 ヒバリは「何言ってるのこの子」とばかりに訝しげな視線をツナに向けてくる。いやそれはそうだろう、事実自分も今そう思っている。

「…何ででしょうね、でもヒバリさんって何か骨細そうなイメージがあるんで」
「勝手なこと言わないでくれる? それに、何回も抱かれておいて今更それを言うの。綱吉」
「そーゆーわけじゃないんですけど…」

 言いながら、ヒバリは着々と自分の服を着ていく。甘い事後のピロートークなんてやる気もないのだろう、ツナもこの人にやられては寒いだけなのだが。
 それにこの人はこれから新しい仕事に向かうのだ。自分は見送ることしかできない。

「…前に、辞書で見かけたんですよね」

 それは日本にいた頃、今から言うと大分前のことになるだろうか。まだ自分が高校生だった頃だ。
 授業で単語の意味を調べるようにと言われて、図書室で借りてきた辞書に偶然載っていた言葉。
 目の前のこの人の名前の意味と、それに付属するように書かれていた単語。

「『雲雀骨』って、雲雀みたいに細い人のことを言うんですよ」

 だからヒバリさんのことを思い出してました、とツナは笑って言う。
 …だけど自分がこの人にそのイメージを抱く理由はそれ以外にもあるのだ。
 目の前のこの人は細く繊細で触れたら一瞬で消えてしまいそうな印象がある。だからといって華奢や繊細という印象は抱かせないが、それでも今すぐツナの目の前からいなくなってしまいそうな印象が消えないのだ。
 だからこそ『雲雀骨』。華奢で細い人。いつかツナの目の前からいなくなってしまう人。

「…だったら」
 ヒバリは一通り服を着て、ツナを覗き込んで言った。

「君は頑張って雲雀笛でも吹いてたらどう? 綱吉」
「…雲雀笛?」
 ツナは目を丸くして雲雀を見返した。ヒバリはツナの反応に呆れたようにため息を吐く。

「君、雲雀骨まで分かってたのに雲雀笛知らないの?」
「いえ、えっと! 知ってます! でも、雲雀笛って…あの…」
 恐らく見当が付いているだろうに口ごもってしまったツナをヒバリは見下ろして、何一つ言うことがなく扉へと向かっていった。

「で、ドン・ボンゴレ」
「うあ、はい!」
 突然仕事モードに入ってしまったヒバリにツナもつられて仕事モードに入ってしまう。

「今回の『仕事相手』に対して何か注釈は?」
「いえ別に…何も」

 ありませんよ、と言おうとしたところでふと気がついた。
 『雲雀笛』。その存在に。

「…じゃあ、俺頑張って笛を鳴らしますから、ヒバリさんも頑張って帰ってきてくださいね」
「僕は頑張る必要なんてないけどね。
 ――――じゃあ、行ってくるよ綱吉。笛を鳴らすこと、よろしく」
「はい、行ってらっしゃい。ヒバリさん」

 そして扉は閉じられた。ツナはまだシーツにくるまったままだ。

「…あと一時間くらいかな」

 そうしたら笛を鳴らしてみよう、とツナはベッド脇に置いてある携帯電話を抱え込んだ。
 笛はいつも通り冷たく静かに、あの人の元に繋いでくれることだろう。

***
Ciboの後のお話。
ちなみに雲雀骨というのは厳密には骨張ってやせていると言うこと。
雲雀笛は、雲雀を捕らえるために吹く笛だったりします。