とある草食動物の悲鳴


 ふと、窓の外に綱吉が見えた。
 どうやら体育の授業中のようだ。内容は陸上、1000メートル走。『ダメツナ』の名前を欲しいがままにしている綱吉は相変わらず最後に一人だけでグラウンドを走っている。
 …確か、少し前に見た光景もこうだった気がする。4月の始め頃、一番最初のスポーツテストでも綱吉は一人グラウンドを走っていた。
 だが、あの時と違うのはその隣に二人の姿があることだろうか。いつも綱吉と共にいる腰巾着の二人。走り終わっているはずだろう二人は綱吉を励ましている。
 その光景に、何故だかひどく腹が立った。

 あぁ、僕の前で群れるんじゃないよ草食動物。
 いっそのことその心の臓の鼓動を止めて僕だけの物にしてやろうか。

 そこまで考えて、止めた。死んだ草食動物など何の価値もない。
 死体は死体だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 ああ、でも。

 ようやく走り終えたらしい綱吉を見て、ヒバリは思った。

 あの草食動物は少し特別だから、休憩として昼休みは応接室に招待するくらいはやってもいいだろう。
 勿論綱吉に拒否権はない。断ったら断ったでトンファーの餌食になるだけで、それはそれでヒバリにとっては楽しい。

 昼休み、ヒバリの放送を聞いた時の綱吉の慌てようを想像して、ヒバリは昼休みが待ち遠しくなった。