Il te che si incontra alle 3
「はい、紅茶」 自然な動作で差し出されたティーカップとソーサーを、びっしりと書かれた文字とにらめっこしていたツナは顔を上げて素直に受け取った。 「あ、ありがとうございます。…って、もう3時なんですか?」 ティーカップとソーサーを差し出してくれた人に尋ねた。その人は頷く。 「そうだよ、まあ集中してたんだしいいんじゃない? 仕事に精を出すのはいいことだよ」 「でも、それでヒバリさんに気づけないんじゃ俺もまだまだですね…」 ひとまずソーサーを机に置いて、それから机の上のぐちゃぐちゃになっている書類を片づける。とりあえず出来ているものと出来ていないものに分けて、それから今あるのはまだ途中だ。 「別に。気配消してきたし。君が気付かないのも無理ないよ。 それより、冷めるよ。お茶」 ヒバリが湯気の立つティーカップを指さした。ツナは慌ててカップを手に取る。 「今日もいい茶葉が手に入ったんだ」 今日『も』ということからか、ヒバリはどこかしら上機嫌だ。ヒバリを満足させるだけの茶葉が手にはいることなんて滅多にないのに、これは珍しい。 「へぇ、何ていうお茶ですか?」 思わずツナは尋ねてみた。それから一口飲んでみる。あ、美味しい。見る限りストレートティーなのに渋さが全くなくて、逆に甘みまである。 「ケニアだよ。美味しいだろう? 渋いのが苦手だと思ったから、甘みが強いものを選んできたんだ」 「…ケニア?」 ヒバリはそう言うのだが、ツナにはそれが国名にしか聞こえなかった。 「…ヒバリさん、俺の記憶違いじゃなかったらケニアって国名……」 「そうだよ、ケニア産の紅茶で品名がケニア。安直だけど味は確かだね」 そしてもう一口。ついでとばかりにヒバリも自分の分のカップを出してきて一緒に紅茶を飲んでいる。 「あ、それから今日のお菓子は久々に僕が直々に作ってきたから。このお茶に合うお菓子が見つからなくってね」 「え! 本当ですか!?」 ツナは顔をほころばせた。久々のヒバリさんのお手製だ! ここのところ食べてなかったからこの味が恋しくなってきていたのだ! 実はこの人はこんな外見と雰囲気(もしくはやっていること)に反してお菓子作りも大得意なのだ! ヒバリは大袈裟に喜んでいるツナを横目に呆れたような顔をし、だがどこか嬉しそうにヒバリ特製の可愛らしい洋菓子を机の上に置いた。 ツナはティーカップを多少乱暴に置いてヒバリ特製のお菓子を幸せそうに頬張った。ああ、久々のヒバリさんの味だ。 「美味しい?」 「はい!」 「そう、ドン・ボンゴレの口に合ってよかったよ」 ツナの動きがピタリと止まる。それから恨めしげにヒバリを見た。 「…ヒバリさーん」 「事実だよ。それにドン・ボンゴレともあろう者が安物を口にしてもいいと思ってるの?」 「でも…」 「君がいいと思っていても、回りの人間はそうは思っていないってことさ。自分でも自覚しているんだから、いい加減諦めたら?」 諦めきれないから言うのではないか。こっちに来て結構な時間が経っているが、いつまで経ってもツナはこの高級思想に慣れることができない。別にいいじゃん、服なんて2,30万もするのを着なくても。 「じゃあ、このお茶、一体いくらなんですか?」 「そうだね…20万くらいかな」 さらりと、あくまでも普通に言ったヒバリにツナはお茶を吹き出しかけた。とりあえず根性で口の中に留めておく。ヒバリの顔にかかったり、書類にぶちまけたりしたら今までの苦労が水の泡だ。 「はぁ!?」 「だから、20万」 「紅茶が!?」 「そうだけど、何?」 あくまでも平然としているヒバリ。何でこの人はこういうところは平然としているんだ…!? ツナはそこが分からない。確かに美味しいものはそれ相応の値段はするだろうけど、別に20万とかするようなお茶を仕入れてこなくてもいいのに…! いや、もしかしてそれだけ高価で良質の茶葉が手に入ったから上機嫌だったのかもしれない。そうだ、そう考えれば納得がいく。そういえばこの人、始末屋なんて危ないこと(ツナも人のことは言えないが)やっているくせに全然お金使わないし。そうかそういうところに使ってたんだ…! 「…どこで仕入れてくるんですか、そんなの……! やっぱり始末屋としてのルートですか!?」 「始末屋は関係ないよ、これは僕個人のルートだ。君も行ってみるかい? 店主が会いたがっているんでね」 ヒバリはごく普通に尋ねてくる。ツナは勢いよく首を横に振って遠慮しておいた。 「い、いいですいいです! 遠慮しときます! 仕事も詰まってるし!」 「…僕に指図するの?」 …ヒバリの空気が変わる。だけどそれに怯んでいたツナはもうここにはいないのだ。 「します! 今の俺はそれだけの地位にいるはずです!」 ツナが精一杯遠慮すると、ヒバリの空気が元に戻った。どこかしら残念な雰囲気が混じっている。 「…ふぅん。最近働きっぱなしの綱吉に休みをあげようかと思ったんだけど、いらないならいいね」 目を見開いた。自分の耳が拾ってきた単語が信じられないとばかりにツナは聞き返す。 「え、休み?」 「そのつもりだったんだけどね」 「…でも、誰かいるんでしょう?」 ツナはボンゴレファミリーのボスだ。休暇といっても名も知らない誰か(護衛)がいるのが常で、一人になれるとき何てこういった風に仕事をしている時だけだ。 だが、ヒバリはニヒルにクールに皮肉気に笑うのだ。確信に満ちた笑みを浮かべるのだ。 「いいや? そんなへま僕がするわけがないじゃない。誰もいない。二人の秘密のお休み。書き置きだけ残して一日だけの休暇。しがらみは全くなし。君の好きな下町を満喫。どう? 面白そうじゃない?」 …それは本当に魅力的だった。少なくとも、ツナにとっては。だからこそ問い返した。 「…本気ですか?」 「今まで僕が言ったことの中に冗談はあった?」 「……ありません」 そう、今まで一度もこの人は冗談を言ったことはない。今まで全て有言実行不言実行言ったことも言わなかったこともこちらが人知れず悩んでいることも全部こなしてきた。 だから、頼りたくなる。 ヒバリがカップをソーサーに置いて足を組む。それから顔をツナに近づけて囁いた。 「で、ドン・ボンゴレ。お答えは?」 「…Si! よろしくお願いします、ヒバリさん」 ヒバリは返事の代わりに魅惑的な笑みを見せた。それだけで充分だった。 |