Io gli daro la vacanza
ふわぁ。ツナは欠伸をした。 「眠そうだね」 目の前でカップを口に運ぼうとしていたヒバリがそれを見て咎める。 ツナは「はい」と頷いて目蓋を擦った。 「最近ちょっと仕事が溜まってて…。俺も一生懸命やってるんですけど、どうも終わらないんですよ」 だから最近は、ヒバリさんとお茶を飲んでるこの時間が一番幸せですよ。 そう言って柔らかな笑みを浮かべるツナ。ヒバリは軽く嘆息した。 「…君、いい加減書類仕事上手になったら?」 「無理ですってば。イタリア語も英語もそれなりにできるようになりましたけど、俺にはこの書類に書いてあるようなことを軽々しく決定できませんよ」 「…苦労人だよね、相変わらず。まあ、それが君のいいところなんだけどね」 ただの傀儡に成り果てないところとか、リボーンの教育が活かされているといったところか。だがその気質が今のツナを苦しめているのは変わりない。 目の下にクマ。精も根も尽き果てたと言わんばかりにボロボロの姿。これではあと数日の内に倒れてしまうだろう。全くあの子どもは一体何をやっているのか。 「ねえ、あの子どもはどうしたの?」 「リボーンですか? リボーンは今ちょっと出かけてますよ。……多分どこかのボスを暗殺してるんじゃないかと…」 「じゃあ、君の信頼できる右腕達は?」 「獄寺君と山本も、今ちょっと別のマフィアの抗争の鎮圧に行ってもらってます」 成る程、と頷く。これではこうなるのも仕方ないというところか。このボスを止める人間が誰一人としていないのだから。 ヒバリはツナを見る。ツナはヒバリと一緒にいても、うつらうつらと寝かけている。普段ツナはヒバリと一緒にいればこんなことはしないが、今回は本当に疲れているようだ。 「ふうん…じゃあ頑張らなきゃね」 「ああ、はい、そうですよね…」 ヒバリは静かにティーポットの中に白い錠剤を仕込んだ。 「って、あれ!? ここどこー!?」 後部座席から声が聞こえた。どうやらツナが起きたようだ。 「え、もしかして誘拐!? うわ、どうしようデリンジャーは…」 「うるさいよ、綱吉」 後ろでごちゃごちゃと言っているツナに、運転をしながらヒバリが声をかける。 「え、ヒバリさん?」 「確かに君は誘拐されてるけど、誘拐したのは僕だから安心してよ」 さらりと不穏な言葉を残しつつ、ヒバリは楽に運転していく。 「ヒバリさん、どうやって…って、あ! あの時の紅茶!」 「ご名答。睡眠薬入りだよ」 「どうするんですか! 今頃みんな大騒ぎですよ! 書類も進まないし」 「帰ったら僕も手伝ってあげるよ」 「ヒバリさんはうちのファミリーじゃないですよね!」 「君よりかは君のファミリーのことをよく分かってるつもりだけど」 ぐ、とツナは押し黙った。それが全くの真実だからだ。少なくともボンゴレファミリーのボスを務めているツナよりも、始末屋をやっているヒバリの方がボンゴレの実状を分かっているだろう。 「今の君が仕事をやってもはかどらないのは明白だよ。それよりかはちょっと休んでから作業効率を上げた方が効率的だと思わない? それとも、僕の誘いを断るのかい?」 ヒバリは後ろ目にツナを見る。トンファーはいつだって取り出せるように仕込んでいる。 「い、いえ! そんなことは!」 「じゃあ決まり。黙って僕に着いておいで」 静かに、有無を言わせない声でヒバリは言う。ツナは引きつったような笑みを浮かべて、それでも静かに頷いた。 「大丈夫だよ。いざとなったらボンゴレくらい潰せるから」 「いや、それはやらないでくださいね!」 二人はそんな会話を続けながら、目的地へと向かっていく。 |