本編裏
《 1.ツナが10年後に行っている間の応接室 》 「それで?」 どこかで聞いたことあるような始まりだな。そんなことを考えながら、綱吉は天井を見上げていた。 たくさん戦った。たくさん血を流した。そのせいでお互い頬などから血を流していて、応接室は壊滅状態でしっちゃかめっちゃかだ。綱吉も頬から血を流していた。 「君、何で炎出さなかったの」 雲雀のトンファーが喉元に当たる直前で止まっている。雲雀は静かに尋ねた。こちらが本気ではないことは見抜かれていたようだ。 「だってヒバリさんは本気だし、それで俺まで本気で戦うとどっちかが死んじゃうじゃないですか。ここにはリボーンだっていないんだし」 例えばここにリボーンがいたのなら、どこかでこの邂逅を見ていてどちらかが危険になったら止めてくれるけれど。 10年後のリボーンは自分と同じで死んでいるし、今のリボーンは10年後にいる。止める人間なんていない。 「だったら何で君は戦ってたの」 「そりゃあヒバリさんが仕掛け始めたからでしょうが!」 だから自分は不可抗力だ、と言うと雲雀が不満そうな表情を見せた。とは言っても本当なのだから仕方がない。 「それに、今の俺はあんまり炎が使えないんです」 グローブで喉元にあるトンファーを押し返して、綱吉は立ち上がった。そう負傷があるわけでもないようだ。これならすぐに動けるだろう。 「だって俺、死んでますから」 改めて自分で言うと、素直に受け入れることが出来た。そうだ、自分は死んでいるのだ。 「…?」 意外なことに素直に押し返された雲雀は訝しげに綱吉を見ている。確かにそうだろう。こんな風に訳の分からないことを言われればそんな風に見るのも道理だ。 「実は10年後の俺は死んでるんですよ。といっても、仮死状態なんですけどね。 10年前の俺はアイツらに襲撃されて死にかけました。その時に一緒にいたリボーンが俺もよく知らない変な弾を俺に撃って仮死状態にして、体は俺を襲撃した奴らがどこか変な所に連れて行きました。それで、精神だけでふらふらしてたらいつの間にか10年前の自分と入れ替わってたんです」 「それが炎が使えない理由と何の関係があるの」 「あります。今のこの体―――体って言っていいのか分からないんですけど、この体が死ぬ気の炎で作られてるからなんです。今の俺は精神だけの状態だから体がない。だから死ぬ気の炎を生み出せない。 つまりはこの状態で炎を使って戦えば、俺の体の炎がなくなって今度こそ死ぬだけなんです。 俺は、それだけは避けなきゃならなかった」 自分をどうにかして生かそうとして、この方法を選んで死んでしまったリボーンのためにも。 「だから俺はこの体で、せめてアイツを殺さなきゃならないんです」 それで死んでしまっても、それだけはやらなければならないことだった。 「…本当にヒバリさんの言うとおりだったんです。誰かを殺したくないから、俺はリングを捨てた。それが一番正しい道だって信じてたから。 だけどそれがヒバリさんの言うように敵に付け入られてしまった。ボンゴレに逆らう者なんてもういないだろうなんて安心してしまった。いや、逆らう者はいてもリングなんてなくてもどうにかなるだろうなんて思ってしまったから」 「甘いね、だから君は草食動物だ。群れただけで強くなれるなんて思い上がりも甚だしい。 『みんながいるから大丈夫』なんて、何で言えるの」 雲雀は当然のようにそう言う。その言葉は真実そのものだ。 だけどみんながいるから大丈夫だって、その時は本当にそう思っていたし今でもそう思っている。 「…言い訳をするなら、その時はみんなと一緒にいなかったんですけどね」 「ならそれは君の過失だね」 そうですね、と頷く。確かにそれは自分自身の過失で、誰のせいでもないのだ。 ボンゴレの10代目のボスに就任したというのに、警戒心が足らなすぎて襲撃されて死んでしまって、そしてリボーンも死んで。 10年前の自分も巻き込んで、自分だけ10年前でのうのうと過ごしていて。 そんなの許せなかった。だから動こうと思った。自分だけ安全なところにいるなんて我慢が出来なかった。 「…だから動かせてくださいよ、ヒバリさん。 この時代の俺が出来る事なんて、これくらいしかないんですから」 小さく呟いた言葉が耳に届いたのか、雲雀は小さく呟いた。 「君がどういう理由でソイツを殺そうとしているのかなんて知らない。 だけど君が誰かのために動いて、誰かのために死のうとしているのなら―――」 呼吸が止まった。雲雀の視線がすっと細くなった。 「君、多分死んだ方がいいよ」 呼吸が止まった気がした。 「それ、どういう意味ですか」 喉が渇いていて、上手く言葉を結べない。 「言葉通りの意味だよ。君の言葉を聞くなら、君は自分の為じゃなくて誰かの為に動いている。誰かの為に動いて、誰かの為に死のうとしている」 「死のうとしているわけじゃ…!」 「同じことだ。炎で構成された体と、炎で戦う君。そして生み出せない炎。簡単と終わればいいと思うけど、きっとそうはならない。なら結果は明白だ」 「……!」 雲雀が言っていることは正しい。正しいからこそ、今の自分には耳を塞ぎたくなるようなことばかりで。 綱吉は小さく苦虫を噛み潰す。分かっているからこそ目を反らしていたこと。 雲雀はそんな綱吉を分かっていて口を開く。 「赤ん坊は君を生かそうとしてその体にした。そして何の因果かは知らないけど、この時代の君が10年後に向かい10年後の君はここにいる。 なら、今君がしなければならないことはなんだ」 「―――それは、」 知っている。分かっている。自分がしなければならないことは――― だけどそれを言いたくないのだ。言ってしまえば今の自分が為すべき事なんて、本当になくなってしまうから。 「君がどう思おうと、赤ん坊は君を生かそうとした。そのことを忘れない方がいい」 雲雀はそう言うと、もう綱吉を咬み殺す気はなくなったのか仕込みトンファーを仕舞う。そして床に転がっている鉛筆を手にとって、綱吉がここに入ってきたときと同じように机に座って再び書類を書き始める。 綱吉はそんなマイペースな雲雀を見て小さくため息を吐いた。 「―――やっぱりヒバリさんは正しいんですね。正しすぎて嫌になる」 「だったらここに来なければいい」 間髪を問わずに返ってきた答え。だけどそれは綱吉にとっては許容できない答えだった。 「嫌ですよ。俺にとってはその正しさが救いになってるんですから」 正しいことを正しいことだと。間違っていることを間違っていることだと。それを言えない人も多いのだから。 綱吉の周りの人達が言えない理由は、弱さではなく優しさからなのだけれど、それでも真っ当に見て真っ当に言ってくれるこの人は綱吉にとっては貴重だった。 そんな思考を知っているのかいないのか、雲雀は綱吉を見ることもなくあっさりと答えた。 「そう、だったらここにいたら」 その言葉に綱吉は頷く。 「―――はい。 きっとヒバリさんも呼ばれる時が来ます。その時までは、俺もここにいさせてもらいます」 きっとそれは真実だろう。 今はどれだけの人間が10年後にいるかは分からないが、10年バズーカがこの時代にある限りボンゴレに関わった様々な人間が10年後に行き続けるだろう。 そしてそれは雲雀も同じで。 だけどそれでも、きっと雲雀がいなくなっても綱吉はアイツらを殺そうとはしないだろう。 自分がここに来た理由がある筈だ。そして自分が10年後に戻ることを願って――― 綱吉は静かに、雲雀の隣でその時を待つのだ。 End.
*** これにて今回は終了。 ツナがこちらに来た理由は捏造ですのでご注意を。 リボーンがツナに撃った弾の種類としては憑依弾と似たような感じです。 ちなみに、結局ヒバリさんが10年後に呼び出されたのかは分からず終い。 本編もまだまだ中盤ですので、二次創作はこの程度で終了します。 |