Battaglia nel Natale
「えーと…」 飛び交う銃弾に、俺はひとまずそこにあった物陰に隠れた。 一体どうして、こんなことになってしまったのだろう? まあ何にしても、今の状況が指し示すことなど一つなのだが。 「俺に安息はないってことか…」 「何言ってるの、当たり前でしょ。そんなこと」 一人だと思って飛び込んだ場所なのに、背後から声がする。思わず銃を持って振り向けばそこにはヒバリさんがいた。口調で既に分かっていたが、それでも確認のためだ。 ヒバリさんの眉間にデリンジャーを構える。反射神経的にそこに持って行ってしまったが、デリンジャーならば死にはしないだろう。…もう少し距離を取れば。 俺は相手がヒバリさんであることを確認してからデリンジャーを下ろした。ヒバリさんはそんな俺を見て少し残念そうな表情をしたが別に俺が気にすることじゃない。全く、どうしてこの人は俺と殺し合うことを夢見ているのか。 「何でですか? ヒバリさん」 とりあえず尋ねてみる。こんな状況で答えてくれるかは分からないけど。 「そりゃ、君がボンゴレだからだよ」 「…やっぱりですか」 「当然でしょ」 「うう…」 今では既に慣れきった問答を繰り返す。ある意味不毛なのだが、それでも諦めきれない俺がそんな問いかけを繰り返してヒバリさんがそれに答えるのだ。 「だからといって、こんな日まで襲われなくたっていいじゃないかと思うんですけど」 「万聖節に大きなパーティなんて開くからだよ。自業自得だね」 「俺が開きたくて開いたんじゃないんですよ!」 「知ってるよ、赤ん坊でしょ。新年までに敵対勢力を一掃させたいみたいだね」 至極あっさりとヒバリさんはそう言いきった。俺は流石だなあとヒバリさんを見た。それが全くの真実だったからだ。 「だから今回のことは君も承知済みでしょ。いちいちぐだぐだ言わない」 「…はい」 というか、今回のこのパーティのことは幹部のみんなには既に報告済みだ。唯一報告できなかったのが、手助けはしてくれるけどボンゴレファミリーには所属していないヒバリさんだ。最近忙しかったし会うことも出来なかった。 だけどそのヒバリさんはこうやってリボーンの計画を全部分かってくれるのだから、別に説明しなくてもいい。だから楽なのだ、この人は。 銃弾が壁に当たって跳弾する。その跳弾した弾をヒバリさんがトンファーで叩き落とした。 「でもですね…クリスマスですよ? お休みがほしいじゃないですか! 日本人なら!」 「僕はクリスマスなんて関係ないけど」 そこらで群れてる雑魚を咬み殺せればそれでいい。とヒバリさんは酷く物騒なことを言う。というかヒバリさんは最初からこういう人だ。 「でも、せめてケーキくらいは食べたかったな…」 心底残念そうに呟いた。クリスマスといえばケーキだろう七面鳥だろうツリーだろうプレゼントだろう! その全部が欲しいとは言わない。だけど、せめてクリスマスらしい気分を味わうためにケーキだけは食べたかったのに。 「…そう」 「はい」 思わずしょんぼりと項垂れてしまった。まるで今が銃弾の飛び交う戦場だとは思えない程の穏やかさだ。緊張感の欠片もない。 ヒバリさんがじっとこちらを見ている。何を考えているんだろう。 「…僕は生まれてこの方、クリスマスなんてやったことがないけど」 「へ? やったこと、ないんですか」 「そういうのをとことん嫌う家なんだよ、ウチは」 驚愕の新事実だ。ヒバリさんはクリスマスをやったことがなかった…! 話の腰を折ってしまった俺にヒバリさんは睨みをきかせている。…ごめんなさい俺が悪いですだから怖いので止めてください。本当にごめんなさい。 俺の視線の意味が通じたのか、ヒバリさんはため息を吐いてからぽんと俺の頭に手を乗せた。 「…でも、君が望むならケーキくらいなら焼いてあげるよ。ボスの頼みならね」 その言葉はもう一度俺を震撼させた。ヒバリさんのケーキ! ヒバリさんのケーキが食べれる! 「…その言葉、嘘じゃないですよね?」 「君が望むなら、いくらでも焼いてあげるよボス」 「…まずはそのボスって言うのをやめてほしいんですけど…。分かりました、俺はこれからヒバリさんのケーキのために頑張ります」 静かにそう告げて、下ろしていたデリンジャーを構える。グローブはいまは付けていないが、今すぐにでも出せるように臨戦態勢だ。 「…あのさ、君、恥ずかしくないの」 ケーキのために戦うなんて。 「恥ずかしくないですよ、だってヒバリさんのケーキですから!」 だってヒバリさんのケーキは俺の大好物で、ヒバリさんの日本食は俺の大好物で。ヒバリさんの作ったモノはとてもとてもおいしくて。 ヒバリさんが俺の後ろに着く。援護してくれる気は満々だ。 「じゃあ、行きましょうかヒバリさん」 「…仕方ないから、着いていってあげるよ綱吉」 穏やかな日々のために。そしてケーキのために。 俺は銃弾の雨の中に駆け出すのだった。
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ツナは学生時代からヒバリさんに餌付けされてそのままです。 何はともあれ、ハッピーメリークリスマス! |