夢を、見ていた。
 子供の頃の夢だ。



the fools
2.5/幕間/Dream



 昔の、とてもとても幼い頃の夢。
 いまだ外の様子すら知らない頃の、幼い幼い夢。



「あにさま〜っ!」
 王宮の外の庭園で、妹が呼んでいる。隣には弟もいる。二人とも、ひどく楽しそうに笑っている。何が楽しいのか分からない。だから、僕は二人の呼びかけに答えずに、すぐにその場を立ち去った。


 僕はどうやら昔から煙たがれていたらしい。煙たがれていた? 少し違う感じがする。恐れられていたと言った方が正しい。
 僕は昔から子供らしくなかった。でも、弟も妹もただ単に純粋な子供だったから、僕がどれほど子供らしくないかを明らかにされていた。

 でも、別に僕は気にしなかった。周りは僕のことを可哀想な子供だと言っていたけど、僕は可哀想なんかじゃないし、別に今のままでいいと思った。

 今の僕は、完璧なある神様にそっくりだそうだ。完璧だけど冷たい人。代々王となる人間は毎度一度は神を見るらしい。男性女性と関係なく。
 それならば面白い。この王家の家系を作り出した最古の祖先はどうやら神様らしいから、本当ならとても面白い。神様同士気が合うのだろう。

 でも、僕は可哀想だとは思わなかった。だって、自分に対して同情したら、それこそおしまいだ。そんな人間に、僕はなりたくない。


***


 そんなある日、父は僕を外に連れだした。どうやら街を視察に行くらしい。しかもお忍びでだ。
 でも、どうして僕を連れて行くのかがよくわからなかった。確かに僕は第一王子だけど、僕を連れて行っても何にもならないのに。


 街はいつだって明るくて幸福だ。でも、それだけじゃないのを僕はよく知っている。
 この王都だって、一歩裏に入れば人間の醜い部分で溢れてる。

 でも、父はそれに気付いてない。気付こうとしない。
 その点で言えば、父は良い王なのだろう。いや、運がいいと言うべきか。悪い王はそういう悪の部分に気付いてそれを操ろうとして自滅していた。
 父はその悪の部分に気付かず、表の人たちを幸福にしようとしている分、まだマシだと思う。だけど、裏の人たちは幸せになれない。

 僕はどっちがいいのか分からない。多分、普通の人ならば父のような方がいいというのだろう。その分の犠牲なんて僕はイヤだ。

 多分、僕のような人間は王に向いていないのだろうと思う。でも、父は僕にお前が次の王になれと言う。

 あの人が一体何を考えているのかはわからない。僕にはずっと分からなくて困っている。
 多分、今回のことも僕を王にしようと思って、早くから視察に連れ出したんだろう。本当によく分からない。分からなくて、困っている。


「…あ」

 思わず声を上げる。考え事をしていたら、みんなとはぐれてしまったようだ。しかも、ここは街じゃない。街道だ。
 最近の報告では、街道ではよく盗賊が現れているらしい。しかも、今は夕方だ。よくこの時間に現れるらしい。あと、貴族の子供とかを狙っているという報告もあった――――。

「まずいなぁ、今の状態がピッタリだ」
 全然まずそうじゃない声が出て僕自身がビックリした。でも、本当にどうしよう。こういうときに限って盗賊が出てしまう。

ざっざっざっ…

 後ろから数人の足音。盗賊かどうかわからないけど、普通の人かどうか確認するために後ろを振り向く。

 同時に、僕の首ははねられた。


 イタ―――――イ――――――イタ、イ――――イタ――――――――イタ―――――イ―――――――――
 イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ――――――――ッ!!

 でも―――――生きて、る? どうし、て? 人間って、首を切られたら、死ぬんじゃないの?

 僕―――は、死んで――――ない。

 何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で―――――――――ッ?!


『そんなに死んでないことが驚き?』

 当たり前だっ! こういうときは人間死ぬモノだろうっ!!

『そんなに驚くモノなのかしら。よく分からないけど―――お前、死にたくないでしょう。』

 死にたくない? 当たり前でしょう、死にたい人間がどこにいるんですか。

『よし、その生きながらえたいという思いの強さ。お前に決めたわ。』

 何の話ですか。

『お前はまだ知らなくていいの。それじゃ、おやすみ。』


 ――――そこからはよく、覚えていない。ただ、目が覚めたときに目の前にいたのは、どうやら自分を殺したらしい男たちの死体だけだった。

 それにしても、一体何故今になってあの夢を見たのだろうか。幼いころは不安になるたびにあの夢を見ていたけど、今はもうすっかり忘れていたといってもいいだろう。

 そして、昨日ノワールさんに会ったばかりだ。何か―――こう、嫌な予感がするのは、気のせいだろうか。



 夢、幼いころの夢を見た。
 それがどのような理由をもつのか、今はまだ知るよしもない。



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