敵、来襲 生き残ることは、できるか? the fools
5/Encounter 「来たわよっ!!」 私の言葉と同時に、天井が崩れ落ちる。予想通りの展開。すべてを見ることが出来る神ならばこそ、やってくると思った。 特に、私の所は始終監視していると思ってもいいから。こんな話をしてくれば早速ぶち殺しにやってくるもの。 「何者にも操られぬ母なる海、わが意思に答えよ。ウォーター・ガーデン」 静かに呪文を詠唱する。先手は打っておいたほうが得だ。ついさっきみたいに我を失っているわけでもないし、小声で呟くように言う。勿論、隣の王子様にも聞こえない程度にだ。 魔法を詠唱しても、いまだ魔法は効力を見せない。それは当たり前だ、それこそがこの魔法の真価なのだから。 「…何を使ったんですか?」 聞こえていないと思っていたら聞こえていたらしい。この王子様は意外と侮れないらしい。当たり前か、そうでなければ私を殺してなどいない。しかし、そんな王子様の問いなどまるで無視。 はっきり言ってしまえば邪魔である。魔法は一つ使うたびに精神力を要するのだ。しかも大きければなおさら。こんなところで無闇になにかを喋るものじゃない。その分私が死ぬ可能性が高くなる。 隣の王子は色々と不満そうだ。私が何も答えないのも一つの原因だろう。しかし、そんなことにかまっている暇はない。 崩れ落ちた天井はただの岩となって私たちに降り注ぐ。これで私が死ぬとは思っていないが、目くらまし程度にはなると思っているのだろう。どこからなにが飛び出してくるかわかったものではない。 例えば、その岩の間の中から縫うようにこちらに向かってくる光の刃とか。 「ノワールさんっ!」 「落ち着きなさい、見苦しい」 意外とこういう事態になれていないらしい王子様は慌てふためいたように私の名前を叫んでいる。…いや、慌ててはない。この王子、意外となかなか曲者だ。精神がほとんど動いていない。 つまり、慌てふためいていることは演技なのだろう。つまり、この王子意外とこういう事態になれているらしい。さすが神様。 そんなことより目の前の魔法だ。見る限り、どうやら精神力をエネルギーとしているらしい。雷ならどうしようと思ったが、これなら大丈夫みたいだ。 「我を守れ、ウォーター・ガーデン。」 言葉の解放と同時に、私の背から突如として大量の水が飛び出す。そのまま光の刃を包み込んで完璧に消滅させた。 これが、ウォーター・ガーデンの真意。ウォーター・ガーデンは私の意思によって動く無から生み出した水。 精神エネルギーによって生み出したものだから、普通のものならすべて打ち消すことが出来る。 結局は、こんな魔法合戦は力と力のぶつかり合い。 知恵と己の力によって、相手の魔法を打ち消すことも出来れば、逆にその魔法を操ることだって出来る。 そして、私の魔法は神と同様の力を有している。この程度は当然。さすがに精神エネルギーを消費するから疲れるけど。 「それが、さっきの魔法の能力ですか。」 「…これだけじゃないわ。」 まだまだ打ってくる刃をウォーター・ガーデンで防ぎながら、私は王子様に向かってそう言ってまた刃に向かって防戦一方となる。 王子様は上から降ってくる岩をすべて叩き落しているらしい。さすがに、自分たちのいるところのみだが。 そうして、空から落ちてくる岩をすべて跳ね除け、その岩を縫うように打たれた刃が消え去ったとき、今回の敵の姿が現れた。 今回の敵を、私はよく知っていた。本当に昔から、よく。 「お久しぶりね、女神様。」 私を助けてくれた女神様。私を導いてくれた女神様。私に術を教えてくれた女神様。私を絶望に陥れてくれた女神様。なんて懐かしい人。とてもとても殺したい人。 「えぇ、お久しぶりですね。ノワール」 女神様は穏やかに微笑んだままこちらを見ている。彼女は今指一本動かすだけで、今使役している魔法使いたちに攻撃することが出来るだろう。 これだから神は嫌いだ。微笑んだまま殺そうとする。それがどれだけ残酷なことと知っていながら。しかも、殺した後に続く嘲笑を忘れはしない。しかし、一体何故私を殺しに来たんだろう。 彼女たち自身が私に不老不死の能力を与えたと分かっているのに、それでも殺そうとする。もしかして、私を完璧に殺す術を持った神でも現れたんだろうか。 そうでなければ彼女たちが私に対して攻撃を仕掛けようとは思わない。監視するだけで終わっただろう。 「それで、どんな要り様で?」 白々しいけどそう尋ねる。あくまでも高圧的に。それでいて挑発的に。彼女たちが逆上する術はもう知り尽くしている。 これで食いついてくるはずだ。昔から知っている。かなり分かりやすかったから。あぁ、イライラする。昔のことなんて思い出すものじゃない。どうやらやっぱりこちらのご想像通り、かなりムカついているご様子だ。 私も向こうもイライラしてる。それでも、彼女は笑顔を取り戻す。 「分かりきっていることでしょう。あなたと、そこの先祖がえりの神を殺しに来ました。」 一人一人指をを指してそういってくる。だいぶムカつくけど、それでも我慢。あぁ、もうあの王子様の言うとおり、神殺しの旅でもしましょうか。 そうね、それが楽ね。神様なんて全員殺してやる。でも、今はまだ狸と狐の化かし合いを… 「アハハハハハハハハハハッッ!」 しようとしたけど、隣の王子様が突然笑い出した。一体なに? 今度はこの人が狂い始めた? 神様ってそういうことが多いの? そういうわけでもないでしょう。 …? なんだろう、何かおかしい。これは、前までの彼ではない。精神の形が違う。これは、彼? 違う。これは彼女だ。別人。一体誰? …………神様? 「お久しぶりね、アイナ。元気にしてた? 元気にしてなかったのなら私うれしいんだけど?」 「…馴れ馴れしく話しかけないでください、第一王子シュバリエ。」 口調まで変わってしまった王子様は酷く親しく女神にそう言って、容易く王子様は女神に近づいていく。だが、女神は王子様の正体に気付いていないようだ。しかしこの二人は知り合い? だとしても、決して仲はよくなさそうだ。仲がよい相手に、元気にしてなかったら私はうれしい、なんていう人を、とりあえず私は知らない。 「そうね、お久しぶり。」 やはり知り合いのようだ。いや、むしろ王子様が勝手に知っているだけとも受け止めれる。 しかしこの人は一体誰? 女神を知っていて、王子様を知っている。そんな珍しい人を、私は知らない。二人とも知っている人ということは、業界人でありながら業界人でないという人。本当に誰だろう。 「どうもこんにちは、あなたが神殺しのノワールね。」 「…どうも」 そんな彼女は私に気付いていたのか気付いていなかったのかは知らないけど、私に軽く挨拶をしてきた。私も一応会釈する。 まったく、この空間だけ異様に場違いになってしまった。今は一応戦闘中じゃなかったの? 「私はシュバリエの中の神。そしてノアーエイルに干渉したのも、この私。」 ぴしりと、時が止まった感じがした。少しの間忘れていた絶望が、また押し寄せてくる。気持ち悪い。 これが、私を最後の絶望に陥れたモノ。これが、神。私を殺したモノ。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い――――ッ!! 「今は殺し合いはよしましょう。殺し合いなんていつだってできるわ。それよかは、目の前のを殺した方がいいでしょ?」 確かに、それはもっともだ。そのことを知らせた相手に八つ当たりするよかは、私に関わった人間すべてを殺した目の前の神を殺した方が幾分か気分はいい。 死んだ人たちは喜ばないと思うけど、そんなことは知ったことではない。こんなモノ自分のために過ぎないのだから。 「それで、あなたはどなたですか。」 久しく口を閉ざしていた女神が口を開いた。こちらに遠慮でもしていたのだろうか。本当にそうならかなりの愚か者だ。 普通は会話中にでも攻撃してくるものだ。いや、神々ならばこそ、どう足掻いても攻撃はしないだろう。 それが神々が上級種であるという優越感から来るものなのだから。その馬鹿げた優越感を取り払わなければそんなこと出来るわけがない。 「あら? あなたまだ気付いてなかったの? それでも運命の三女神?」 王子様の姿をした神が愚かだと言わんばかりに嘲笑に似た笑みを口元に浮かべる。きちんと挑発の仕方を知っているらしい。 それにしても、この女神は運命の三女神だったのか。それは知らなかった。面白いことを聞いたものね。 「私はお前に滅ぼされた先祖がえりの神そのものよ。名前すらない哀れな神のね!」 そしてそのまま、神様はその場から攻撃を仕掛ける。硬質化された腕で彼女を一気に滅ぼそうとしているが、それは無理だ。 あの女神様はあくまでも神。私よりかはまだタチがいいけど、それでも人間よりかは生命力が高いせいか、人間のように殺しても滅ばない。 それでも一撃必殺しかない。一撃で確実に殺さなければ、神々は死なない。 その魂まで殺さないと、神というものは殺すことが出来ない。あの王子様にそれは出来ないだろう。 どんな神だって、魂を殺す術を持っているわけがないんだから。持っているのは私だけ。 神ではない神殺しである私だけの術。人間である私だけの術。しかし、あの神様なら持っているのかもしれない。 あの神様はこの世界の神とは違う系統樹を持つ亜種の神。その程度の術は持っていてくれれば嬉しいんだけど…ッ! ついさっきから魔法による攻撃が始まった。大抵はウォーター・ガーデンで防いでるけど、いつまで保つかわからない。 だけど号令もなく突然一斉攻撃を始めた魔法使いたち。多分ノアーエイルのような伝達機がどこかにいるんだろう。 だからこそ連携も取れるし、あまり味方にとって不利なことはしないはず。少し、こちらの状況としては不利だ。 どうせなら、こちらも連携をとるためにそういう伝達機が必要だ。…ちょうどいいのが一つある。私を主とする、珍しい神様からの贈り物。 「来なさい、ノアーエイル!!」 私の言葉と共に、現れたのは黒い羽根を持つ一対の翼。珍しい鳥。これこそが、ノアーエイルの本体。 やはり、まだ私を主をして認識しているようだ。いつもは面倒なだけの伝達機も、こういうときには役に立つ。 周りはノアーエイルを呼び出したことにより、大分騒然としている。何をするかわからないからびくびくしていると言ってもいいだろう。 そんなことは全く持って気にしてないようで、ノアーエイルは私の右肩に乗ってこちらを見る。 「何かご用でしょうか?」 えぇ、ご用よ。ノアーエイル、あの魔法使いの上空を飛びなさい。私の魔法は音声が届くところまで。だからあの魔法使いに、私の声を届けなさい。 「…破滅させるおつもりで?」 当然でしょう。さぁ、お行き、ノアーエイル。お前まで巻き込まれたくなければね。 「了解しました。」 ノアーエイルは忠実に、私の言うことを聞いて魔法使いの上空へと飛んでいく。 あの魔法使い達もノアーエイルにまで攻撃を仕掛けようとは思わないだろう。あれは神々が作った代物。色々と役に立つ。 ノアーエイルも上空にまで到達した。ここからは、私の本領発揮。 ウォーター・ガーデンを使用したままで新しい術を編み出してゆく。これが私の強み。私の魔力は半端じゃない。普通の人間なら、二つ同時に強力な魔法なんて編み出せない。そんなことをやったら身体が壊れて自滅するだけ。 「さぁ、ウォーター・ガーデン。奴らを縛り付けなさい。」 ウォーター・ガーデンは私の意志通りの行動をする。それはあの魔法使いにだって止めることは出来ない。あの中に私以上の魔法使いはいないもの。いるとしても、所詮は人間並みね。何が神なのかしら、呆れてしまう。 「終焉の時、既に終わりし。生き残りし我らに降り注ぐは罪の光。」 静かに、あくまでも静かにそう言う。こっちは雑音が大きすぎてほとんど聞こえない。まだ何も起こらない。向こうには聞こえているだろうか。いや、聞こえていたとしても何をすべきか、魔法使いたちは分かっていないだろう。 ノアーエイルはすべてに対して言葉を贈っているようだ。勿論、神様にも女神にも。この部屋全体を破壊するつもりだ。 これはこれは、どうもありがとう、ノアーエイル。少々お節介とも取れるけど。 『あの神に伝えなくてもよろしいのですか?』 「あれなら殺しても死なないわ。すべて…滅びなさいっ!」 神と女神の対決を見る。大分神様が有利になっている。女神はもう虫の息、といった程度。もうすぐ決着が付きそうだ。 「ライト・オブ・シンッッ!!」 声が、その場を木霊した。空が開ける。別の空間に繋がった。あれは私が作り出した私の魔法を閉じこめるための亜空間。 そこから降りてくるのは、膨大な熱量を持った光の束。大量の、殺人光。浴びただけで普通は死んでしまう、毒の光。 誰も逃れられない、私が作り出した魔法の中で最も強い、そして最も危険な最凶魔法。 それでも、一応私を避けるように設計されている。だから私には当たらない。 それに、私はウォーター・ガーデンで自分の身を守っている。水で遮断していれば、あまり光は入ってこない。だから私は死なない。 光がやんだ。意外と今回は早く終わったらしい。それだけ、魔法使いたちが弱かったということか。そして、あの女神も。 いや、あの女神が弱いんじゃない。ちょうど今、終わったところだ。 「滅べェェェェェッッ!!」 その言葉通り、女神は神様によって滅ぼされた。跡形もなく、塵すら残さず。すべてを、消し去った。何で滅ぼされたのかはよく分からない。だって私は見ていない。取りあえず魔法ではないだろう。 そして、すべてが終わった後、私は神様と向き直った。 敵、襲来。 そして遭遇。 一体私は何を選ぶ? 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