本編裏


《 1.ツナが10年後に行っている間の応接室 》

 その日、雲雀恭弥はいつも通りに仕事をしていた。
 最近は黒耀中の並中襲撃事件やボンゴレリングなどというものに巻き込まれてはいたものの、それもようやく片が付いてやっと落ち着いてきた頃だ。
 しかし雲雀にとってはどうでもいいことだった。雲雀にとっては平穏な日常こそ厭う物だ。群れている者や草食動物も嫌いだが、平穏な日常は退屈すぎて飽きてしまう。
 まあ、その日常を退屈な物にはしないように日々努力はしているのだが。
 そして雲雀はここ最近立て続けに起こった事件のせいで溜まった書類を片付けていた。
 書類にペンを走らせる。別の資料が必要で手元にあったファイルを開いて、再び書類にペンを走らせた。
 今日はこうやって一日中書類仕事に追われるのだろう。だがこんな日もあってもいいと思う。雲雀は学校を愛していた。その学校の為ならばこの程度のことなど何でもない。
 そんな風に考えていたのだ。―――この時までは。
 ガラと勢いよく音を立てて応接室の扉が開く。誰だ、今日は誰も入るなと言明しておいた筈なのに。
 雲雀はその音を察知した瞬間に書類から離れて仕込みトンファーを構えた。だが書類からは離れたものの鉛筆を離すことはしない。
 そして何者が応接室に一歩踏み込んだその瞬間、雲雀は持っていた風紀専用の鉛筆を顔面に狙って投げる。相手が怯んだのでそれだけで終わるかと思ったが、聞こえてくるはずだった鉛筆が肉に突き刺さる音が聞こえず、代わりに鉛筆が壁にぶつかって床に落ちた音が聞こえた。
 その瞬間雲雀は走り出す。机から扉まではそう離れていない。その距離を一足で詰めて、その鳩尾に向かってトンファーを突き上げた。
 応接室に響き渡る金属音。何かで防がれた。ならばともう片方で顔面を横殴りにしようとすると、今度は腕がやってきてそれを防ぐ。ミシ、と骨と筋肉の軋む音。相手の息を呑む声。
「ひ、ヒバリさ…」
 その自分を呼ぶ声が、どこかで聞いたことがあるような気がしたけれども―――雲雀はそれを黙殺する。
 そして鳩尾で止められているそれをほんの少しだけ力を抜いてずらして、そしてトンファーを一気に付き入れた。
 しかしそれも叶わないことに気づく。鳩尾を付いたはずの腹から響いたのは肉を付く鈍い音ではなく、甲高い金属と金属が弾け飛ぶ音だった。
 その時点で雲雀は背後に飛んだ。これは中々の実力者だ。今日は書類仕事に従事しようかと思っていたが気が変わった。
「面白い、遊んであげるよ」
 ジャキン、と音を立ててトンファーから仕込み鉤が出てくる。
 あの服はどうやら特殊な装甲になっているらしい。ということは狙うは素肌が見えている部分だ。顔なんかは特にいい。
 そしてそこでようやく雲雀は相手の姿を見た。身に纏っているのは黒いスーツ、だがそれはそこらのサラリーマンが着ているような安物ではない。身長は雲雀よりも10cm程高いだろうか。そして顔は―――
 雲雀は顔をしかめた。その顔が自分のよく知っている物だったからだ。
「沢田綱吉…?」
 あの草食動物の顔だった。だが自分が知る顔と違って大人びており、骨格も現在の少年のそれではなくきちんとした成人のものだ。
 雲雀が思わず名前を呼ぶと、草食動物に似た何者かは嬉しそうに笑った。
「はい! ヒバリさん!」
 雲雀自身はあの草食動物に笑顔なんて向けられたことはないけれど―――その笑顔は確かに、他の草食動物と群れている時に見せる沢田綱吉の笑顔そのものだった。

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本編裏の妄想。
10年バズーカでツナが向こうに行ってしまったのだから、
こっちには10年後のツナがやってきても不思議でもないので。
いやこっちには誰もいないってことは分かってるんですけどね!